元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブルー・バイユー」

2022-03-07 06:20:35 | 映画の感想(は行)
 (原題:BLUE BAYOU)幾分展開に納得できない部分はあるが、問題提起は評価して良いしキャストの仕事ぶりも万全。演出リズムは及第点で、鑑賞後の満足度は高い。何より、映画で描かれているような事実を知ることは有意義だと思う。第74回カンヌ国際映画祭における「ある視点」部門の出品作である。

 主人公のアントニオ・ルブランは韓国で生まれたが、3歳の時に養子としてアメリカに連れてこられた。長じてシングルマザーのキャシーと結婚し、幼い娘のジェシーも含めた3人でルイジアナ州の地方都市で暮らしている。キャシーは第二子を妊娠中で金が必要だが、アントニオは本業のタトゥー職人以外にはなかなか仕事にはありつけない。



 ある日、彼は些細なことで警官とトラブルを起こして逮捕されてしまう。起訴はされなかったが、取り調べの途中で30年以上前の養父母による手続きの不備が発覚。移民局へと連行され、国外追放命令を受けてしまう。アントニオとキャシーは裁判を起こして異議を申し立てをしようとするが、そのためには多額の費用が必要だ。切羽詰まったアントニオは、仲間と共に捨て鉢な行動に出る。

 本作は実話を元にしているが、まず斯様な事実が存在していたことが驚きだ。アメリカでは昔は外国からの養子縁組はいい加減な手続きが横行し、アントニオのように本国への強制送還を迫られるケースが多発しているという。近年救済措置が発効されたが、ある時期より前に養子として入国した者には適用されない。

 さらに、里親が養育義務を果たしていない場合も多く、アントニオは何組もの里親の間をたらい回しされている。この重篤な問題を提示してくれただけでも、本作の存在価値はある。もっとも、主人公の言動には疑問点も多く、自分で自分の首を絞めるような所業には首をかしげざるを得ない。ただ、韓国での生い立ちを暗示させるくだりや、アントニオが知り合うベトナム難民の女性とその家族の描写は見事だ。

 監督は主演も兼ねた韓国系アメリカ人のジャスティン・チョンで、初演出とは思えない達者な仕事ぶりを見せる。特に、ラストの空港でのシーンは観る者の涙を誘わずにはいられない。キャシー役のアリシア・ヴィキャンデルは的確な演技だが、よく考えるとむさ苦しいJ・チョン演じる男が彼女のような上玉をゲット出来るとは、にわかに信じがたい(笑)。

 マーク・オブライエンにリン・ダン・ファン、子役のシドニー・コワルスケなど、脇の面子も万全だ。あと、ヴィキャンデルがタイトルになっている“ブルー・バイユー”(ロイ・オービソン作。一般にはリンダ・ロンシュタットのバージョンが有名)を歌うシーンがあるが、意外に上手いので驚いた。
コメント
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