元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「浪人街」

2021-07-02 06:33:33 | 映画の感想(ら行)
 90年作品。どう考えても、ATG出身の黒木和雄監督に斯様な娯楽時代劇を撮らせるのは、適切とは思えない。案の定、要領を得ない出来に終わっている。もっと相応しい人材がいたはずだが、プロデューサーにはそういう考えが無かったらしい。キャストは豪華だが、うまく機能していない。

 江戸下町において夜鷹が次々に斬られるという事件が起こる。この街で用心棒をしている赤牛弥五右衛門や荒牧源内、そして母衣権兵衛らは犯人を突き止めるべく、おとり作戦を敢行。見事に下手人を成敗したと思われたが、連続殺人はまだ続いている。実はこの事件は、旗本の小幡一党による集団的な狼藉であった。恋人のお新にも魔の手が迫ってきたことに憤慨した源内は、100人以上もの小幡一味に対して戦いを挑む。また、権兵衛たち他の浪人たちも助太刀に駆けつけるのであった。昭和3年にマキノ正博が監督した「浪人街 第一話 美しき獲物」のリメイクだ。

 マキノ版は観ていないし、本作がどの程度元ネタを反映させているのか分からないが、チャンバラ物としては気勢が上がらないのは確かだ。好き勝手に振る舞っていたアウトローたちが、大義のために一致団結して敵と対峙するという筋書きはよくあるパターンで、ちゃんと作ってもらえればそれなりに盛り上がるものだが、本作はそうではない。

 とにかく、浪人たちの心意気がまったく伝わってこないのである。源内を除けば、皆なんとなく戦いに加わっているようだし、各人が抱えているはずの熱いパッションも、どこにも見当たらない。そして、活劇場面の低調さは致命的だ。終盤、画面上では十数分にも及ぶ乱闘が展開されるが、大殺陣と形容できるダイナミズムは見出せず、チャンバラとしての“型”はあるものの段取りが悪いため、迫力が出ない。

 各剣客が登場するタイミングも悪く、鼻白むばかり。やっぱりこのネタは黒木監督には無理だと思う。深作欣二や工藤栄一あたりに任せた方が、もっと面白い映画になったはずだ。原田芳雄に田中邦衛、勝新太郎、樋口可南子、石橋蓮司、中尾彬、佐藤慶、杉田かおるなど、配役は多彩だが、それぞれ持ち味を十分出していたとは言い難い。印象的だったのは松村禎三による音楽ぐらいだ。
コメント
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