元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「記憶の技法」

2020-12-18 06:24:36 | 映画の感想(か行)
 映画の“外観”とヘヴィな内容がマッチしていない。また、話自体に説得力を欠く。キャラクターの掘り下げも浅い。福岡市が主な舞台になっているのであまり文句は言いたくないのだが、もっと上手く作って欲しかったというのが本音だ。撮影から公開まで2年半もかかったのは“作品の出来も関係していたのでは”と思いたくもなる。

 東京に住む女子高生の鹿角華蓮は、幼い頃の曖昧な記憶の断片が何度もフラッシュバックし、時おり意識が混濁するという症状に悩まされていた。修学旅行で韓国に行くことになり、パスポート申請のために戸籍抄本を取り寄せた華蓮は、自分は今の両親の実子ではなく、養子として引き取られたことを知る。



 真実を知りたい彼女は親に内緒で修学旅行をキャンセルし、自身の本当の出生地である福岡市へと向かう。その旅には、なぜかミステリアスな同級生の穂刈怜も付いてくるのだが、やがて華蓮は幼少期に体験した悲惨な出来事に向き合うことになる。2016年に急逝した漫画家の吉野朔実の同名コミックの映画化だ。

 まず、ヒロインの過去に世の中を騒がせた事件が関係していたことが分かった時点で、ネット検索すれば概要は掴めるのではないか。わざわざ現地に足を運ぶ必然性が感じられない。怜は高校生のくせに六本木でバーテンとして働いており、親が怪しげな宗教にハマったことや青い瞳を持っていることが思わせぶりに示されるが、現実味は無い。

 そして、表向きは若い男女の秘密の旅行というラブコメ的な設定を採用していて、それらしいモチーフもあるのだが、映画のストーリーの中に鎮座している凶悪事件が醸し出す禍々しい雰囲気とまったく合っていない。ここはライトに振るか、あるいはシリアスに迫るか、どちらかに徹するべきだった。また、華蓮が突然福岡市から日帰りで釜山に行くという、どう考えても余計な行動を取るのも納得出来ない。ラストは無理矢理“感動”させるような扱いになっているが、それまでの展開がチグハグなので取って付けたような印象だ。

 これが初監督になる池田千尋の仕事ぶりは、ただ脚本を追っているだけでアピールしてくるものがない。主演の石井杏奈と栗原吾郎は、まあ可も無く不可も無しだ。それより柄本時生の存在感は光っていた。小市慢太郎や戸田菜穂などのベテラン勢は悪くなかった。福岡市の主なロケ地は福岡ドーム周辺と香椎線沿線などだが、無難な扱いである。
コメント
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