元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「菊とギロチン」

2018-10-22 06:33:50 | 映画の感想(か行)

 いまひとつピンと来ない。ひょっとしたら特定のイデオロギーを持ち合わせている人は大絶賛するのかもしれないが、まずは映画を一歩も二歩も“引いて”観てしまう当方にとっては、まとまりの無さばかりが目についてしまう。加えて3時間を超える上映時間は、疲労感を覚えるのには十分過ぎた。

 大正末期。関東大震災後には国民の一部に共産主義思想が広まるなど、不穏な空気が流れていた。思想家の大杉栄が殺されたことに義憤を感じていた政治結社“ギロチン社”の面々は、当局側に追われながらも資本家や官僚に対するテロを画策していた。そんな彼らが流れ着いた田舎町で、女相撲一座“玉岩興行”と関わりを持つことになる。社会から爪弾きにされた女たちが繰り広げる真剣勝負にプロレタリアートの気骨を垣間見た“ギロチン社”の中濱鐵と古田大次郎は、一座と行動を共にする。やがて中濱らは女力士と恋仲になるが、彼らの前には厳しい現実が立ちはだかる。

 監督の瀬々敬久による長編ドラマとしては2010年に撮られた「ヘヴンズ ストーリー」を思い出すが、明確で重大なテーマを提示していたあの映画に比べると、本作の主題は曖昧だ。ハッキリ言って、登場人物たちは一体何をしたいのか、ほとんど伝わってこない。

 政治結社とは名ばかりで、“ギロチン社”の連中は恐喝やカッパライで得た小金を酒や女遊びに使ってしまう。時折思い出したように理想を語るが、それらは非現実的で説得力は無い。肝心のテロも失敗に終わる。

 女相撲の構成員の境遇には同情すべき点はあるが、“ギロチン社”と接触することによって何か根本的な状況の変化が起きるわけでもない。若い力士である花菊の辛い生い立ちや、朝鮮人力士の十勝川が嘗めた辛酸など、それ自体はドラマを喚起させる素材ながら、脇に“ギロチン社”が控えていることもあって取って付けたような印象しか受けない。

 勝手に自警団を結成して主人公たちを苦しめるシベリア帰りの元兵隊たちの扱いは興味深いが、その顛末に思い切った仕掛けは用意されておらず、拍子抜けだ。何やら全体的に、言いたいことは山ほどあるのだが結果が伴わないといった按配で、隔靴掻痒の観を呈している。聞くところによると構想に長い年月を要したらしいが、この“構想○○年!”といった謳い文句の映画に大したものは無いのは定説だろう。

 加えて、画面のブレがひどい手持ちカメラの(意味のない)多用や、聞き取りにくいセリフなど、技巧面でも万全とは言い難い。中濱役の東出昌大は相変わらず演技が一本調子で、木竜麻生や韓英恵などの力士に扮した面子も奮闘はしているがこちらに迫ってくるものはあまり無い。印象に残ったのは座長に扮した渋川清彦ぐらいだ。
コメント
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