元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「狩人」

2018-05-27 06:31:16 | 映画の感想(か行)
 (原題:I KYNIGHI )77年作品。監督のテオ・アンゲロプロスが本作の前に撮った「旅芸人の記録」(75年)に続き、1955年以降のギリシアの激動をの歴史を綴った作品だが、前作ほどのインパクトはない。もっとも、映画史に残る傑作である「旅芸人の記録」と比べるからそう感じるのであって、これはこれで非常に野心的で貴重な映画であると思う。

 76年の大晦日、雪に覆われたイピロス山中で、狩りに出かけた6人の男たちは、四半世紀も前の内乱で死んだゲリラ兵士の死体を発見する。今死んだばかりのような温かい血が流れる死体を抱え、湖畔のホテル“栄光館”に戻って思案する狩人たちは、これまでの人生を回想する。

 彼らは元政治家や軍人であった。米軍駐留の最中に、ゲリラを告発することによってホテルのオーナーになった者、58年の国政選挙で左翼が投票できぬように裏工作を画策していた選挙管理委員長、63年に起こった右翼のテロ事件で左翼から寝返って同志を密告した男など、いずれも“叩けば埃の出る身体”である。

 アンゲロプロスは得意のワンシーン・ワンカット技法、そして時間と空間を縦横無尽にランダムアクセスさせることにより、彼らが荷担した負の歴史を鋭く切り取って行く。さらには幻想的なシーンをも取り入れ、個々の出来事の残虐性・衝撃性をより一層強調する。そしてラストのペシミズムは観る者を慄然とさせるだろう。

 しかしながら、「旅芸人の記録」が主人公たちが単に歴史の狂言回しとしての役割だけではなく、ドラマの中心に位置していたのに対し、この映画の登場人物は歴史の証人とはいえ、過去を追想している主体に過ぎない。また、パンフレットなどで予備知識を仕入れないと映画に入って行けないのは、ちょっと辛いのも事実。

 見事にバランスのとれた構図。色彩感覚の鋭さ。効果的な音楽(ルキアノス・キライドニスが担当)。3時間近い上映時間であるが、少しも飽きさせない作者の力量には感心する。ヴァンゲリス・カザンやベティ・ヴァラッシなどのキャストは全然馴染みが無いが、アンゲロプロスの映画は知名度のある俳優を起用すると求心力が低下する傾向があるので、これでいいのかもしれない。
コメント
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