元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「蝿の王」

2014-12-30 06:22:27 | 映画の感想(は行)

 (原題:LORD OF THE FLIES )90年イギリス作品。ウィリアム・ゴールディングが1954年に発表した同名小説の映画化。このジュール・ベルヌの「十五少年漂流記」の悪意あるパロディみたいな原作は、すでに63年にピーター・ブルック監督によって映画化されているが、残念ながら私は未見である。

 近未来の戦争下。少年達が疎開のために乗り込んだ飛行機が敵軍の攻撃により墜落。彼らは南太平洋の無人島に漂着する。取り敢えず理性的な者をリーダーとしてまとまろうとするが、人間性を喪失した連中との内ゲバが勃発し、凄惨な展開になってゆく。

 ハリー・フックの演出は堅実ではあるが、インパクトという点ではやや弱い。例を挙げれば、弱肉強食の考えを抱えて野蛮性を帯びてゆく少年・ジャックの描き方が表面的に過ぎる。原作にあったはずの、少年達のセクシャルな雰囲気も希薄だ。ラストに至っては、あっさりと流していて不満である。

 しかしながら、主人公のラーフの扱い方には作者の“良識”が感じられ、観ていて頷けるものがある。自分がそれまで育ってきた合理的な近代社会を信じ、どんな状況でも社会的な常識を貫こうとする。たぶん、映画の送り手はこの題材のブラックなテイストには与しないのだろう。そんなスタンスが青臭くも好感が持てる(ひょっとしたら、ブルック監督版はダークなタッチが強いのかもしれない)。

 フック監督はデビュー作「キッチン・トト」(88年)で脚光を浴びたが、この「蝿の王」以来その“消息”を聞かない。残念な話だ。なお、フィリップ・サルドによるダイナミックな音楽はとても印象的である。
コメント
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