元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「屋根裏部屋のマリアたち」

2012-10-29 06:47:44 | 映画の感想(や行)

 (原題:LES FEMMES DU 6EME ETAGE)出だしは“ユルい”と感じたが、恋愛映画の作り方に長けたフランス作品らしい“肌触りの良さ”が徐々に出てきて、結果的に気持ちよく劇場を後にすることが出来た。

 1962年のパリ。主人公のジャン=ルイは証券会社の経営者だ。息子二人は全寮制の学校に籍を置いているため、一年の大半は妻シュザンヌとの二人暮らしである。長年勤めていたメイドが辞め、代わりにジャン=ルイたちが住むアパルトマンの屋根裏に住んでいる中年女の紹介で、若いスペイン女のマリアが雇われる。

 この屋根裏部屋には彼女だけではなく、スペインから出稼ぎに来ている女たちが集団生活を送っていた。ジャン=ルイは一見屈託のない彼女たちと仲良くなるが、そのことは彼の家庭にも大きな影響を及ぼすことになる。

 前半、主人公と屋根裏部屋の住人たちが触れ合う場面は微笑ましいが、どこか表面的で空々しい印象を受ける。しかし、ここのスペイン人たちはフランコ独裁政権の恐怖から逃れるために、やむを得ずフランスに生活の場を求めていることが分かってくると、作劇にグッと奥行きが付与される。

 隣の国では生きるか死ぬかのシビアーな状況に国民が追いやられているのに対し、地続きの国境線を隔てたこちらでは太平楽に色恋沙汰を謳歌している。この落差の理不尽さが、観る者に粛然とした気分を味合わせる。

 さらに興味深いのは、享楽的な日々を送っているように見えるシュザンヌの造型だ。彼女は地方出身で、社交仲間から少しでも田舎者扱いされることを恐れている。そのため身なりや物腰に細心の注意を払っているのだが、そのことに対して心底疲れているのだ。ジャン=ルイとスペイン女達との付き合いを知って、シュザンヌが本音を見せていくあたりの描き方は上手い。

 監督のフィリップ・ル・ゲイは今回初めて知ったが、ラブストーリーの中に時事ネタを挿入させてスパイスを効かせる腕前は、なかなか達者だ。主演のファブリス・ルキーニは好調。おっとりとした憎めないキャラクターをうまく表現している。マリアの叔母に扮したカルメン・マウラの重量感も要チェックだ。舞台がスペインに移るエピローグは余計かもしれないが、明るいタッチで憎めない。
コメント (2)
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