元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「かげろう」

2007-04-06 23:08:36 | 映画の感想(か行)
 (原題:Les Egares)2003年作品。1940年、ドイツ軍の攻撃から逃れるためパリから郊外に脱出した母子と、そこで出会った謎の少年との交流を描く。ジル・ペローの自伝的小説をアンドレ・テシネが脚色し、演出も担当している。

 一家の主を戦争でなくした喪失感により、得体が知れないが頼りにはなる少年を次第に受け入れてゆく主人公達の心理がよく描けている。また、戦死者から所持品を躊躇なく盗む少年の行動に、当人のの闇を投影すると共に、死が日常茶飯事になった戦争の不条理を象徴させている作劇には納得できる。母親役のエマニュエル・ベアールと少年に扮するギャスパー・ウリエルの演技も申し分ない。

 しかし、通りかかった兵士たちが戦争の終わりを知らせて去って行った後の終盤の展開がやけに慌ただしい。もっとじっくり登場人物の内面的動きを追うべきではなかったか。おかげでラストの処理も唐突に過ぎて余韻が乏しくなってしまった。上映時間は1時間40分弱だが、もう20分ほど延ばしてそのあたりを描き込んだ方が良かった。

 とはいえ、アニエス・ゴダールのカメラによる映像(特に美しい田園地帯の風景)は素晴らしく、これだけで入場料のモトは取れる。
コメント
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