「差不多」的オジ生活

中国語の「差不多」という言葉。「だいたいそんなとこだよ」「ま、いいじゃん」と肩の力が抜けるようで好き。

さよならもいわずに

2010-10-22 | 
「帽子男」などのギャグ漫画で知られる上野顕太郎さんの「さよならもいわずに」という漫画は、重い内容です。最愛の妻が34歳で突然死。妻の死の前後を、自らの筆で描いた作品です。

喪失感の大きさ、悲しみを、淡々と抑えた筆致で描き、逆に深い表現を得ていると思います。混乱している中でも、表現者として、プロの意識で自分を客観視する姿勢に、なにごとも表現せざるを得ない、表現者という職業の恐ろしいまでの性を感じます。

特に、布団に突っ伏したとき何かの音が聞こえると思ったら、それは初めて聞く自分の嗚咽だったという場面と、妻の思い出を探して資料を整理する中で、子どもへの授乳ビデオの「乳」に頬ずりする場面は印象深い。いずれも特にリアリティが強く、かつシンボル的です。また、自宅での突然死だったので検死解剖となり、警察からどんな状況で亡くなっていたのかの再現を求められる場面のしんどさは、想像するに余りありました。

あえてチャチャを入れれば、少し事実関係に「?」がありました。「警察付の葬儀社」という表現がありましたが、これはありえない。「病院付」の誤りでしょう。また、「散骨」に関しての説明も少々首をひねりました。

そうした点はまあ些細なこと。全体的に見れば実に異色の、意欲的な作品だと思います。「絶望の先に希望がある」という著者の言葉は実感を伴い、重たく響きます。繰り返しますが、表現者という生き方への覚悟、本当に恐ろしいぐらいだし、見事だと思います。頭が下がります。奥様のご冥福をお祈りします。合掌。