「差不多」的オジ生活

中国語の「差不多」という言葉。「だいたいそんなとこだよ」「ま、いいじゃん」と肩の力が抜けるようで好き。

「袋小路の男」

2006-02-21 | 
「沖で待つ」で芥川賞をとった絲山秋子さんの「袋小路の男」。川端康成文学賞受賞作品です。

表題作はなかなか味がある作品でした。自分の才能にナルちゃんがはいり、世を斜に構える美形「俺様」男。その1年後輩の女性が、彼に高校時代に恋する。でも手を握るわけでもなく、時折電話したりお茶を飲んだりという関係がそのまんま10年以上。恋人とも呼べない、友達ともちょっと違う不即不離の関係が続く。

その女性の心の動き、というか心の揺らめきをうまーく表現してます。一途な恋心。声を聞くだけで震えそうな純真とでもいうべき想い。なんというか昔の高校生の、淡く初々しい恋心みたいなものがうまく描けた作品です。

ねじれているけどまっすぐ。喜劇だけれど哀しい。ういういしけれどしたたか。なんといったらいいか、そんな反対語をたくさん対にして並べたくなるような内容でありました。

で、この作品はいいんです。私好み。でも、本には表題作以外が2作品収められている。表題作で恋心の対象となった男性の視点で書いた作品は、私に言わせれば「蛇足」。せっかく表題作で余韻たっぷり、書かない余白の部分でいい世界を作ったのになんだかがっかり。

さらにもう1作品収録しているのですが、先の2作品とはまったく関係がない内容。「えっ、なに?」という感じ。バランスが悪い。作品単体としてはいいのになんでこんな収録の仕方をしたのか、編集者の見識を疑います。もったいない。

でも総じていえば、人と人の微妙な距離感を描くのに長けた小説家だな、という印象を持ちました。ほかの作品もおいおい読んでみたいと思いました。