
ギャラリーオーナーをしている知人がいる。
彼女が主催した企画展が縁で、インドのカンタ布で名古屋帯を仕立ててさしあげることになった。
それまで自分用ばかり仕立てていたけれど、誰かから依頼されて帯を仕立てるのは初めて。
そのあと、コロナ禍となってしまって、依頼を受けてから丸2年がすぎてしまった。
これまで、オールドシルクサリーにカンタ刺繍(刺し子)を施したストールを使って半幅帯を仕立てた経験はあったので、この種の布の扱い方はわかっていたのだけれど、名古屋帯を仕立てるのは久しぶりのことだったので、腰が重くなった・・・というのは単なる言い訳。
他にもいろいろとあったから、なかなか手を付けずにいたけれど、重い腰が軽くなって、ようやく仕立てることができた。
仕立ては楽しい布選びから始まる。
10枚ほど預かってきていたカンタストールのなかから、帯にたりる大きめサイズの落ち着いたピンク色のストールをメインに選び、お太鼓裏にはピンクより一回り小さいサイズの赤い色のカンタ布をあわせた。

初回はリモートで師匠にご指導いただき、昨年、第5波がおさまったタイミングでお教室へうかがい、一番難しい部分を直接ご指導いただいた。
リモート指導の後、改めて直接お教室で対面指導を受けてみてわかったことがある。
それは、手業の伝授においては、直接先生の手元を見せてもらうのが一番ということ。
どんなによく解説されている教科書や解説動画よりも、得られる情報量とか学習の質は、対面指導のほうがはるかに勝るのだと実感した。
そんなことに気づきつつも、のんびりとしていたら、あっというまに第6波が来てしまい、お太鼓と前帯のあいだの部分の名古屋帯独特の工程は再びリモートで。
久しぶりの名古屋の仕立てだったので、作業工程で忘れてしまっていることも多かったけれど、無事に最後まで仕上げることができた。
昨年秋、奈良に理想の終の棲家を手にいれ、東京から引越しされた師匠。
10年あまり通ったお教室は、今年の6月までということになった。
「リモートでの指導が可能な生徒さんには、これからも続けます」とのことなので、ちょっと安心ではあるけれど、直接ご指導を受ける機会はおそらく無くなるだろう。
そういえば、今年の占い本に書いてあった。
「師匠はいつまでもそこにいてくれるとは思うな」
技術的な部分というより、気持ち的に独立していかなければ・・・という思いを胸に取り組んだ、初の依頼お仕立て。
先日、仕立てあがった帯を、依頼元のギャラリーオーナーA女史に届けてきた。
するとさっそく翌日締めてくれて、素敵な写真がSNSにアップされた。
布は、ストールだった時、帯に仕立てあがった時、そして身につけた時とで、表情ががらりと変わるのが面白い。
お召しの着物は白大島。
ギャラリーオーナーというと、一見華やかで優雅な仕事のように見えるけれど、実際にはかなり過酷な働き方をしているようで、そのせいか、いつもどこか尖がった空気感のあるA女史なのであるけれど、柔らかく、慈愛に満ちた雰囲気が醸し出されて見えるのは、帯がピンク色だから・・・だけではないような気がする。
我ながら良い仕事をしたよねえ。
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