MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルツウ-9-4

2010-07-29 | オリジナル小説


「さて。」
ガンダルファとシドラが神月の館の同じ部屋にいる。アギュとナグロスの会話は許されて彼等には筒抜けであった。
上の個室では、ナグロスが何十年も捜し続けていた麗子の遺骸に対面している。
彼女をどこにどうやって葬るのかは彼が決めることであった。
二人の話題はそのことではない。
「めんどくさいことになったなぁ。聞いたかい?」
「遊民の件か。」シドラは自分の色の薄い短髪に手を突っ込んでかき混ぜる。二人は小さな個室の応接セットに向かい合って座っている。昔はこのような部屋をシガールームとでも言ったのだろうか。隣は、かつて竹本八十助が作り上げた個人蔵書の納められた図書室の姿をできる限り再現した部屋と繋がっている。
「まずは実体調査だ。しばらく、監視するしかない。」
「でも、仙人の話によるとだ、既にかなり入り込んでるみたいじゃんか。」ためいき。
「混血もしてるみたいだし。全部、引っこ抜いて終了ってわけに行くかなぁ。」
「連邦法では明快だ。」
「明快か。この星を1歩出たらだろ。ここは治外法権だよ?」
「ここだって連邦の勢力圏外だ。連邦は堂々と権利を主張すればいい。」
「あのさ、ここに連邦法を持ち込むとするとだ、ユリちゃんの立場だって危うくなるんだけど。」
「そんなばかな。そんなわけあるか。」シドラが恐ろしい目で睨みつけた。
「ユリに手出しはさせないぞ。」
「まったく。都合良く法律を変え過ぎだよ、シドラ。」
シドラはいつものようにフンと鼻を鳴らしかけたが、唐突に黙った。
目が見開かれる。
「それどころじゃない。ユウリの欠片・・・だ。」
「はい?」ガンダルファが怪訝な顔をする。
「あれだ、アギュがもう1つ手に入れたユウリの欠片。」
「それがどうしたの?めでたかったじゃない。」きょとんとする相手に『この馬鹿が』と言いたげに手を振った。ガンダルファは要点が飲み込めない。
「ええと・・・アギュがあれも飲んじまったと思うけど、何か問題が?」
「バラバラになったユウリの欠片、いわゆる魂とかの欠片なんだろう? アギュが1つにして、それで本当に元通りになったのだろうか、と言ってるんだ!。」
「さあ・・・。」ガンダルファは正直に否定する。
「たぶん、なったんじゃないのかなぁ。」
「ならばどうして、ユウリは目覚めないんだ? だいたい、魂の欠片を集めてユウリは目覚めるのか? 1つになったのに、なぜ、目覚めないんだ?」
「目覚めるって言っても・・・アギュの中だしなぁ。」
ガンダルファの物憂げな呟きに、今度はシドラがハッとする。
「だって、体がないんだぜ。ユウリだって目覚めようがないんじゃないの?」
「・・・新しい体でもあればいいのか。」
「おいおい。」シドラの眉間に寄った皺にガンタが呆れて諭す。
「その発想、デモンバルグと一緒じゃないか。」
「なんだと!」弾けるように顔をあげたシドラの声がでかくなる。
「あいつと一緒にするなっ!」睨みつけられたガンダルファは肩を竦めた。
『ほんと都合良いんだから。』ガンタは心密かにドラコに呟く。
『ちょっくら思考回路が悪魔と似てるんだよな。そう思わない?』
(その考え、ドラコはノーコメントにょ。バラキに聞かれたら最後にょ)
『おそらく、もう聞かれてるんじゃないの?でもバラキも同じように思ってたりしてね。』
(バラキもノーコメントと言ってるにょ)


隣の図書室ではちっとも頭に入って来ない終戦直後の神月に言及している本を前にして、タトラが思いに耽っていた。
『ナグロスどのがいくら記録上は死んだことになっていたとしても、イリト・ヴェガに報告しないわけにはアギュ殿もいかぬだろうて。イリトがどう処理するか・・・おそらく母船にいる者の一部は連邦内部に直接、通じているものも多いはず。対処を謝れば命取りになるの。しかし、ユリ殿の血縁をむざむざ法で裁く為に、中枢にそのまま引き渡すというのも業腹なことじゃ。いっそアギュ殿のわがままの一環としてイリト殿に通してもらった方がいいのかもしれぬの。進言してみるかの。』
それにと。
タトラは既に母船を通して手に入れた、あるデータを既に自らの脳に注入していた。
『わしの脳の記憶分野はもうとっくに飽和状態になってると思っておったが・・・なんのなんの、まだまだ以外にメモリーが入るものじゃて。』
しばし、猫のように目を細めた。
『ジン殿が先ほどレイコどのの精神流体に叫んだ言葉じゃが・・・やはり、祖の人類の用いていた古代語に類似しているように思えるの。』
先ほどからタトラの頭の中ではジンの放った言葉が何度も正確に再生されていた。『繰り返し使われているのは、この巫女という単語、そして、螺旋・・・これはこのまま祖の古代語と共通しておる・・・全訳するには時間がかかるかもしれぬが・・・この『果ての地球』の古代語とも照らし合わせれば意外に早く解けるかもしれぬ。』
タトラは短い足をぶらぶらさせた背の高い椅子の上で居住まいを正した。
『やはりデモンバルグは祖の人類と出会っておると見て間違いない。いずれ奴の正体と目的も必ずや判明できるはずじゃ。』

旅館『竹本』の2階の廊下には渡が香奈恵とともにいる。
「えっ?香奈ねぇのお父さん、謝りに来てるの?」
屋根の定位置に腰を下ろして漫画を読んでた渡は思わず窓敷居に身を振り向ける。
「うん。」香奈恵はそこに顎を乗せたまま、下を指で指した。
「今、台所で大人の話合いしてる。真由美さんが引きずって来たみたい。おやじ、ママリンに土下座すんのかな。」
「ふーん・・・じゃあ、真由美さんってそんなに悪くないんじゃない。」
「そうみたいねぇ。」香奈恵は首を傾げた。「さっき玄関から入って来た時にチラッと見たけど、なんか雰囲気変わったわ。」なんだかキレイになったと感じた。香奈恵は真由美にじきじきお詫びをされ、おやじに頭を下げられ寿美恵に橋渡しを頼まれた。寿美恵や綾子、浩介と祖父が現れたその直後に香奈恵は上に追いやられたのだ。
「盗み聞きしなくていいの?」
「うん。まあだいたい、展開は見えてるしねぇ。お詫び行脚とか言ってたしさ。おやじ、大学の方からもキツく怒られたみたいだし。真由美さんも、しばらく発掘はお休みするって言ってた。世間に迷惑、かけたってね。」
「そうだよ。もうすぐ、赤ちゃん産まれるんだもんね。」
「でもさ。それより、なにより、驚いたのは飯田美咲よ。」
「飯田さん?魔族だった?来てたの?」渡は驚く。「あの人って・・実在したんだ」
「そうなのよ~驚いちゃうわよ!」香奈恵がブンブンと首を振る。
「本当に実在したのよ~一緒に来たのよ、騒ぎを大きくしたお詫びにって。やっぱり真由美さんが引きずって来たみたいなんだけど。だから今、下にいんのよ。ただ、たださ・・・」香奈恵は怪談でもするかのように声を潜めた。
「飯田美咲のさぁ、顔が違うのよ!顔がっ!」「顔?」「そう、まるで別人。なのにおかしなことに誰もそのことを問題にしないんだな、これがさ。」渡は腰を浮かせる。「本当?ちょっと見て来る!」そういうと漫画本を屋根に放り出した。
「行って行って、見て来なよ、早く。驚くよ、ほんと。」
せかされてバタバタと降りて行った渡が戻ってくるにはいくらも時間がかからなかった。廊下ごしに覗いたらしい。大人達に気づかれる前にすばやく撤収したのだろう。「香奈ねぇ!」慌ただしく4本足で階段を駆け上る。
「見た見た!本当だねっ!顔が違うよ!」「でしょ!」香奈恵も即座に応える。
「でしょ~っ!背の高さも違うしさ。ポッチャリしてるは、髪は茶髪だしさ。あの美女はどこに消えたのよ~って思わないぃ? なのに下の大人達は誰一人この矛盾に気が付かないななんて・・・これも魔族の力なのかしら?」
「なんか、面白い話してるじゃないさ。」
その時、渡の後ろから続いて階段を上って来たものがある。
「アクマ?!」「!」渡もびっくりして腹這いのまま振り向いた。

「顔が違うってことは、別人さ。お前らは偽もんを見せられてたってわけさね。」
「ジンさん・・・」渡は慌てて体を廊下に引き上げて座ったまま向き直った。
目が合うとジンがニッと笑う。
「ちょっと!なんでいんのよ。」香奈恵が前に出る。
「悪魔さん、ここはプライベートスペースよ!お客様の入って来るようなとこじゃないんだからね。」
神興一郎は予定を3週間に伸ばし、まだここに泊まっていた。
「まあまあ。」あきれ顔の香奈恵をジンはなだめた。
「こう騒ぎが多くちゃ客だって落ち着かないのさ。おかげで、さっぱりあきないけどね。今、飯田美咲の話をしてただろ?」
「そ、そうなんだよ。別人なんだよ。」渡がすがるようにジンを見る。
「別人なんだったらさ、本物はどうしてたの?ジンさんならわかるよね?」
「ああ、任せろって。簡単なことさね。」ジンは伸びをする。「もともと発掘に参加していた飯田さんって人はここには来てなかったんだと俺は思うね。おそらく、一人暮らしなんじゃないか?当人は部屋を1っ歩も出てないはずさ。名を騙って発掘に来て、みんなに飯田美咲だって思い込ませていた奴は俺と同じ魔族。つまり、別人って単純な話だ。」
「そうか。」香奈恵が何度もうなづく。「顔は渡の巫女のおばさんとよく似てたもんね・・・ジンさんが騙された目くらましと同じなわけだぁ。」
その当てこすりにジンは顔をしかめる。しかし、その暇もなくすぐ横から。
「飯田さんって人はじゃあ、記憶はないってことなの?でも、謝りに来てるよ。」
納得いかなさそうな渡にジンは面倒くさそうに、しかし丁寧に説明する。
「考えても見ろよ。自分以外の他のみんなはさ、当人が来ていたと思い込んでるんだぞ。証言があるわけだし、どっちにしても断れないじゃないのさ・・・自分でも記憶がはっきりしてないんだったら・・そうだったかもなんて思っちまうもんじゃないさ、人間の記憶なんてさ。あいつ・・シセリが実際にどうやったかなんては俺にはわかんないさ。ただ俺だったらさ・・・一人暮らしで後腐れなさそうな相手を狙って入れ替わる・・そいつはその間、ずっと夢現で寝ているわけさ・・・そして夢で何もかもしたかのようにこちらで起きた現実の記憶もおぼろげに残すわけ。俺なら、そうするかな。まっ、納得がいかなきゃ、当人に聞くしかないさ。なんなら、下行って聞いてくれば?」
そう言われると渡はもじもじと「いいよ、それは・・・」という横で香奈恵がじっと考え込んでいる。やがて顔を上げる。
「ふーん。私なんか、わかった気がする。」
じゃこの話はお終い!とジンは渡に言うと顔を向ける。
「それより、香奈恵ちゃんは俺を怖がるのはもう止めたんだね。」
「だって・・怖がったってしょうがないしぃ。」受け入れるしかないじゃんよと。
香奈恵も欠伸しながら、退屈そうに敷居に座り直す。ジンがその側の窓に凭れた。
「俺っちが君の母ちゃんと結婚する時はよろしくね。」香奈恵は悲鳴を上げる。
「いやー!それだけは止めてよ!」「ジン、ジンさんったら!からかわないでよ!」
「おや、渡くん。」嬉しそうに渡に目を移す。「俺は本気なんだけどさ。」
「嘘ばっか。」香奈恵は笑って口を尖らした。「私、若過ぎる父親はいやだもん。譲にぃも怒っちゃうよ。だから、ママリンだってきっと嫌がるよ。」
「そうかな。」と自信ありげなジン。
そうかなと渡も思う。寿美恵おばさんは喜んでお嫁に行っちゃいそうだけど。もしも、ジンさんが香奈ねぇのパパになんかなったらいったいどうなるんだろう?
香奈恵がさっきよりも砕けたものいいでジンを見る。
「それより、いつまで家にいんの?」
「そうさなぁ。」ジンは伸び伸びと腕を上の窓敷居に置く。「ヒカリ、いや阿牛さんじゃないけど、ここは人を惹き付けるもんがあるさね。俺っちもこの辺に家でも捜そうかな。」
「げげぇ!」香奈恵が唸る。
「あっ、じゃあこの間の屋敷なんかいいんじゃない?」思わず、渡が口にする。ユリが側にいたらとてもこんなことは言えない。
「・・・あの家?」
「もしかして、あのお化け屋敷?」
「キレイにしがいがある・・・なんちゃって。」
「おい、渡くんは俺にあの腐りかけた家を買い取れって言っての?しかも他の魔族が巣食ってた場所を?」
「ご、ごめんなさい!」渡は慌てた。「そうだよね、怖い魔物が巣食ってたってガンタが言ってたものね・・・気分悪いよね。」
「あら、ジンさんって他の魔物が住んでた場所は怖いわけ?」
「怖いわけあるかっ!」思わずジンは力んでいた。「俺を誰だと思ってんだ!これだから、色気を知らねぇ女は・・・」
「誰が色気がないって?」
「おまえの母ちゃんとはえらい違いだっての。寿美恵さんはなぁ、よく気が付くし色っぽいし・・・」
香奈恵の表情を見た渡は慌てて話を切り替える。
「いいよ、ジンさん。ちょっと言ってみただけだから。」
「まあ、それもいいわさ。」ジンはたちまち機嫌を直す。「色々、検討してみるさ、それより」渡だけに愛想を振りまくのも不自然だと思ったのだろう、膨れてる香奈恵にもご機嫌を取るように話しかける。「ジンさんていうのは他人行儀じゃないさ?お前らもジンって呼んでくれよ。」
「わかったわ、ジン。」香奈恵がふんぞり返る。渡は咳き込んで「じゃあさ、ジンさんも僕の事、『渡くん』なんて言わないでよ。渡でいいよ。」
「わかったよ。」ジンはついに勝利を勝ち取った。「渡、これからはよろしく頼むさ。」
「ここでは、悪いことはしないでよね。」
「OK、金輪際しやしないって。」
悪魔の満面の笑みを香奈恵はつくづくと観察していた。
『なに?こいつ?デレデレしちゃって・・・気持ち悪い。もともと悪魔なんて得体がしれないけど・・・』
その時、下から香奈恵と渡を呼ぶ声がした。
「おっと、ようやく話し合い終了ってわけさね。」
「なんだか、友好的な雰囲気じゃない?。うまく言ったみたいだね!」
確かに少し前から下から響いて来るのは笑い声ばかりだった。
「真由美さんがうまく謝らせたんじゃないの?」
「やっぱり、飯田さんにちょっと確認してみよう。」
渡がパタパタと階段を降りて行く。
「おもしろいねぇ。」ジンがニヤニヤ呟くのを立ち上がった香奈恵が睨みつける。
「あんたは呼ばれてないから、悪魔・・・じゃなくてジン。」
「いやそうじゃないさね。香奈恵ちゃん、あの真由美さんて人のお腹の子供さ。」
「?」「男か女か、あんたわかるかい?」
「わかるわけないじゃない、そんなの。」
「腹にいるのはさ・・・男の子なんだよね。」
「それがどうしたって言うのよ!私も、もう行くからね。ジンはさ、この辺、ウロウロしないでくんない。私の部屋とか絶対に入んないでよね!入ったらすぐにわかるんだからね。」「絶対に入んねぇって!なんなら、神に誓ってもいいさ!」
「どうだか!」香奈恵が振り向くとイーッとする。
「下着だってあるんだからね!エロ悪魔なんか信じられるもんですか!」
「あのなぁ。俺だって選ぶでしょよ。」
香奈恵の後ろ姿に言うとジンは軽々と窓敷居を跨ぐ。
「渡の部屋ならまだしも。」それは既に細部まで知っている。
渡の座ってた場所に腰を下ろすジンの口が独りでに動いていた。
「しかし・・・まったくさ。同情するさねぇ。盾の魂も気の毒にさ・・あんなとこに60年、混沌から脱出したくてしたくて・・・他に選べなかったんだろうけどさ・・・それにしてもだ。女にしか入らない『盾の巫女』が男の体に入るとはな。いったい、どうなっちゃうんだろうか。こんなことは、前代未聞だぜ。香奈恵の義理の弟になるのかよ・・・渡とあの魂・・・どういう関係を築いていくのかね。俺っちは今まであれとこれを引き離すことにばかり気を配っていたが。案外、それも悪くないかもな。今回はちょっと・・・逆に面白いかもしれないさ。もともと盾と剣は引き合うが結ばれる事は絶対にないわけだし・・・まぁ男同士だから、その心配は今回はもっとも低い確率になるわけだがさ。」
ジンは渡の座っていた屋根の場所に腰を下ろすと置き去りにされていた漫画本をパラパラと捲った。
「ふーん。真言で悪霊退治か・・・こんなの読んでんだ。今の流行かねぇ。」
本を放り出す。「真言なんて、こんなのさっぱり、俺には気かねぇけどな。」
今は誰もいない離れを見下ろした。
目を上げるとまだ空は充分に明るい夕暮れにシルエットとなった神月の山の稜線。目の前の暗い影となった山の中腹に微かな灯りが見えた。
渡がここにいつも座るのはあの灯り・・・神月の灯りを眺める為なのだろう。
ジンでありデモンバルグである男は悟る。
今は蒼い光とユリのいる神月。
不意にジンの形を取った肉体の中のデモンバルグは武者震いに襲われる。
「・・・しかし、おもしろいねぇ。こんなに面白いことは長い事あって始めてさ。あいつらがここに来たからかね。なんだか今までと何もかもが変わってしまいそうさ。」痛快とも言える笑いがこみ上げて来て、たまらず屋根に立ち上がった。
「やつら、本当に宇宙から来たのかな。」
山に向けて吹き上がってくる風にデモンバルグは素直に身をゆだねていた。
「今なら・・・しばらく姿を消しても大丈夫だろうさ。泊まり客の1人が気ままに夕暮れを散歩としゃれ込むってわけだ。」
闇の羽が差し伸ばされ、ジンは虚空に浮き上がる。
「今回は何もかも、始めてずくしだな。俺の正体を知ったうえで付き合いを始めるってのは・・・回り中も俺っちを認識しているなんていうのも始めてさ。」
先ほどの香奈恵とのやり取りを思い返してみたが、不快感はまったくなかった。
「そういうのも中々、悪くないさ。」実はとても楽しかったと悪魔は認める。
その為には・・・あいつとも話を付けなくては。
ジンは身を起こすとフッと闇を纏う。神興一郎の肉体は視界から消えた。物理的肉体をどう処理しているのかはわからないが、アギュレギオンがよく言っている次元のどこかに収容したのだろうか。
人の目には触れない薄い膜の中をデモンバルグはグングンと上昇して行った。
旅館の厨房の灯りが下になり、神月の屋敷の灯りが近づいてくる。
その庇の辺りでジンは『竹本』の灯りをチラリと振り返った。
「待ってろよ、渡。逃げ回っても仕方ない。その為の話し合いさ。今回こそはお互い、長くたのしもうぜ。」思わず押さえ切れない期待に、顔がにやけた。

「ジンと渡、最強のコンビになるぜ、きっと。」

この記事についてブログを書く
« スパイラルツウ-9-3 | トップ | スパイラルツウ-10-1 »
最新の画像もっと見る