MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラル・スリー 第七章-3

2014-03-12 | オリジナル小説

          物見高き悪魔

 

その頃、ジンはいまだ己の好奇心の真っ最中である。

昨夜からここに残った男が警察官だということはもうわかった。

到着したパトカーから降りてきた警官達に、何食わぬ顔で手帳を示し「警視庁豊島署の吉井武彦だ。」そう名乗ったのも聞いている。

たまたま近くを車で通りかかり現場に遭遇したという話をし、野次馬の整備を自らかって出て大変ありがたがれていたことも。

現在、男は私服に警官の腕章を付けて任務に就いている。老人に後ろから何かしきりに話しかけられているが左右に広げた腕で仁王像のように野次馬を阻んだまま微動だにしない。と、不意にその体が動いた。胸ポケットから携帯を取り出す。老人はあきらめたように離れていた。それにしても一睡もしていないだろうと気遣われてもいるが、憔悴した様子は微塵もない。一睡どころか、昨夜は霊能者基成勇二(行方不明)を相手に死闘を繰り広げていたのだからタフだなんてものではない。意識も強靭さも魅力。まるですべてを切り替えたように何もかも他人事。

死んだ兄弟のことは脳裏にも浮かばない様子にジンの興味も深まるばかりだ。

そのもの好きぶりは一端、ねぐらに帰り肉体を纏って再び現場に舞い戻って来たほどである。業者には自由に出入りしてもらうように手を打つことも忘れなかった。

手回りの荷物はすべて車のトランクに押し込んだ。その車も近くに停めてある。

そうしてまで朝から爆発炎上、身許不明死者一名、不明者3名の現場を見学しているのだ。相変わらず、魔術の行われた痕跡、同類の悪魔も天使も関わった気配すらないのは言うまでもない。

消えた霊能者の手がかりも、目撃した小人の痕跡も勿論ない。

 

ジンは携帯の会話を盗み聞くことも怠りない。

声の波長は同じ、兄弟だろうと辺りを付けた。

『・・連れてくるそうだ。』「対象か?」『いや、違うが使えるかもしれない。』

「わかった。」

電話を切った私服警官は持ち場を離れ、人をかき分けた。

同僚にはトイレに行くと言って代わってもらうのを聞く。見張られているとも知らず、ジンの脇を抜けて行く。ジンも即座に後を追った。

人混みを後ろに残し、どんどん人気が少なくなる公園の方へと歩いて行くようだ。

辺りには警官が溢れていたが、腕の腕章がなければ私服の彼はもうただの私人としか見えないだろう。確かに彼が向かう公園にはトイレがある。しかし、彼はそんなものには目もくれない。人が待っていたからだ。

吉井警官は電話の相手と合流する。予想通り相手は今朝方別れた同じ顔の兄弟だった。向かい合う3名はみな同じ顔だ。

『犯人が現場に戻るって言うのは本当さね。それも雁首揃えてずうずうしいこった。』

昨夜の共犯同士。打ち合わや、口裏会わせ色々やることもあるだろう。

しかし、彼等が待っているのがどうやら誰かを連れて来るというもう一人の兄弟らしいのを知ったジンは呆れた。

『なんだ、こいつら。いったい何人いるんだか。』ジンは4つの同じ顔を遠くから眺めて首を傾げた。『こいつらには魔術の香りはない。と、言うことはだ・・昨日死んだヤツも入れて5つ子としてだ・・・まだ、他に兄弟がいるのかね。多産系犯罪者一家か。家族ぐるみの犯罪とはまったく恐れ入るさ?あとはあっちとの関連さね』意味深な笑いである。『案外、俺の予想通りだったりしてね。』ジンは何を知っているのであろう?

4人のうちの2人がその場を離れ近くの公園の中へと入って行く。彼等は公園を通り抜け、その場に停めてあった灰色のカローラに乗り込んだ。

同時に残った2人にも黒い大きなランドクルーザーが近づく。

顔を出したのも同じ顔。

「おいおい、嘘だろう?」

『昨夜、1人死んだはず・・・ってことは6つ子なのかい?!』

さすがにジンですら人間の一卵性の6つ子が大変珍しいことはわかる。

そしてさらに降りた男にうながされて・・・

車から降りて来たのは岩田香奈恵だった。

 

 

           ジンと香奈恵

 

「ジンさん?」

車から降りた香奈恵は走りよって来た男の顔を見てあっけにとられた。

突然自分達の後ろから現れたジンに警官と男は憮然とする。

私服警官が腕章を付けた腕で香奈恵に近づくジンを手で制した。

「なんだ、お前。関係者以外は入ってくるんじゃない。」

「こ、この人、関係者です!。」考えるより先に香奈恵は叫んでいた。

「この人は、ぎ、義理の父になる予定の人なんですからっ!」

さすがのジンも喜びよりも先に言葉に詰まった。

おい、それでいいのか?その顔にはそんな表情が浮ぶ。それを見た香奈恵も『仕方ないでしょ!今から口裏を併せてよね!』と表情で返した。『本気じゃないから後でいい気にならないでよね!』と。

それはわかったとうなづくとジンは成り行きまかせに同意する。

「えっとまぁ・・・そういうわけで関係者さね。」

ジンは警官の腕を軽く押しやり香奈恵へと近づく。後ろから現れた鳥屋あきらが目をまん丸くしてジンを見ているのに軽く会釈するのも忘れなかった。

「いやぁまったく!偶然さねー。香奈恵ちゃん元気そうでなによりさぁ。寿美恵ちゃんが心配してさ、暇があったら様子見てくれなんて言われてたんだけどさ。」

ここまで言うと覚悟を決め、振り返って警官ともう一人を交互に見た。

「勿論、のこのこ顔出して娘ッ子2人の仲良しお友達旅行を邪魔するなんて野暮はしないわけさね。」向かい合う男達はニコリともしない。無言の彼等を前にしてただ一人、何ベラベラしゃべってんのと言う顔の香奈恵を今度は見た。「ただ、まぁ、着かず離れずって胸中はさ、そういう気持ちはそこはかとなくこっちにいても持ってたりしたわけでさ。したら、まあ、夕べの大騒ぎさ。うちのヒルズマンションからも炎が見えたわけさ。これはいったい何事が起こったのかとまぁ、起きるとすぐ駆けつけて見たわけよ。そしたらばだ、俺っちの日頃の思いが天に通じた訳かここで偶然、おっかさんから託されていた2人を見かけたってわけさ。こりゃ驚いたのなんのって!。まったくなんだ、香奈恵ちゃんも野次馬ってわけさね。こりゃ、俺達、未来の親子としてはすっごく気が合うんじゃねぇかと今は俺は思っているわけさ。」

香奈恵の目だけでなく口元もどんどん不機嫌になって行くがジンはここぞとばかり、並んだ同じ顔に協調する。そのどちらの顔に変化が現れないことを確認する。

「そういうわけで、長々と説明したわけだけども俺っちはこの娘達の保護者ってわけさ。以後、お見知り置きを。どういう事情かどうかわからないけどさ、以後この娘達への話は俺を通してってことで。お話は一緒にうかがおうってことなわけさね。」

3人の男が目を合わせた。

『どうする?』そんな困惑とジンへのぶっそうな思惑に感情が押しつ戻されるのが手に取るようにわかる。人目は少ないとは言え、白昼の公共の場で強硬なことはできまいとジンは計算している。

そして、彼等があることに気付いていないということが、先ほどからのジンが思わせぶりに自身につぶやいている疑惑が今や確信に変わりつつあった。

「わかりました。では、どうぞ。」

あきら、香奈恵、ジンが後部座席に乗り込むと男達はしばし3人で何かを話し合っているようだ。それは車内には聞こえて来ない。ジンも耳をすます余裕は今はない。

「ちょっとぉ。」香奈恵が詰め寄ってきたからだ。「あんまし調子に乗んないでよね。」

「わかってるってさ。」ジンは目を細め、香奈恵を見る。

「あんた、あいつらが怖かったんだろ?国家権力だけどなんだか剣呑な相手さね。」なにせ、昨夜の事件の犯人なんだから。

「うん。そうなのよ。」香奈恵は思わず素直にうなづいていた。

「なんだか、おかしいんだ。最初はここに譲兄ぃ・・・ジンさんは会ったことないけどママリンからは聞いてるでしょ?私の兄貴。その譲兄ぃがさ、行方不明だっていうから仕方なく付いて来たんだけど・・・。この事件のまるで犯人みたいなことも言うし。譲兄ぃは友人にそそのかされただけだとか、その友人に拉致されたとか・・わけわかんない。だから、まだ山梨には電話させないとか。でも、そんなことってある?そもそも、兄貴がこの爆発事件の犯人だなんてありまず得ないわけだし。」

「それは絶対にありえないさね。」ジンは力強く請け合う。

「犯人は別の人間に決まっているから、安心しているがいいさ。」

兄貴の、友人?また登場人物が増えたらしい。いささか悪魔ですら当惑する。

「あの・・・」あきらが香奈恵の前に身を乗り出した。「ジンさんですよね、寿美恵さんの彼氏の。」香奈恵が脇腹を突くがあきらは応えない。「私、鳥屋です、鳥屋亜綺羅。」「おうさ、初めましてさね。香奈恵ちゃんをよろしくさね。」「んもう!」

今朝からの心労に加えてあっちを付いたり、こっちをついたりして香奈恵は疲れ果てててしまいそうだ。

「ねぇ、見てよ!」あきらが素っ頓狂な声を出す。

「よく見るとあの警官とあいつ、同じ顔じゃん!」

「げっ、本当だ!もう一人の背広のやつも!いったいどういうことよ?」

「ふん、3つ子ってことさね。」ジンは鼻の頭をかく。6つ子らしいとは言わない。

「それよりも、あの皮を着た男は警官なんさね。あんた達を連れて来たやつも警官なんだって・・・そう、言ったんかい?」

「うん。そう言ってたけど・・・」「怪しいもんさ。」ジンは考え込む。

6つ子のうちの2人がなんて出来過ぎも出来過ぎ。仲間内で話題にならない方がおかしいが、他の警官は知らないようだった。それにこの間のこともある。

最初の警官の電話の相手、2人目のビシッとした背広に身を包んだ男が近づいて来た。昨夜からの警官とは別にジンが先ほどから注目しているのはこの男だ。残る2人は更に密談を続けている。「あっ、乗って来るよ。」

「どうも。初めまして。」既に見飽きた悪相がにこやかに助手席に滑り込む。

「わたくし、弁護士の吉井と申します。」

大きな体を捩るように小さな名刺を保護者であるジンに向け差し出す。滑らかな喋り方だが、無口な兄弟と同じ顔と体格。しかしその顔には確かな知性が感じられるので他の兄弟とは印象がかなり違う。声も他の兄弟よりも明瞭で美声だ。

ジンはわざとらしく首を傾げつつ、心底それを面倒くさそうに受け取り読み上げた。

「吉井隼人・・」いつの間にか、運転席には別の男が乗り込んで来ている。

『こいつ・・・』ジンは名刺に目はやったまま、そちらに咄嗟に集中する。

こちらの目を盗んで上着を取り替えたのだろうが、ジンにはその男が昨夜、1人だけこの場に残った男。最初から自分が見張っていた警官だとすぐにわかった。


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