MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-30

2018-02-15 | オリジナル小説

母の行方

 

 

その頃、マサミとハヤトの乗った屋敷政則の車が風俗ビルの正面に到着した。

「シャッターが閉まってる・・・」マサミは車を裏手の従業員駐車場に回す。

「閉まってちゃいけないの?」風俗ビルの看板を興味深そうに眺めていたハヤトが無邪気に聞く。「営業時間だからね。」「何の仕事してるの?」「サービス業だよ。」

一応、子供であるハヤトにはマサミは特に説明をしない。

『もう、始まったらしい。』

車を降りると子供に側から離れないように告げる。それを聞いて初めてハヤトは緊張する。「・・・どこから入るの?」不安そうな心配したような表情を浮かべたが、声は普通だった。

「関係者が使う搬入用の入口がある。」

特別な従業員であるマサミは店のどこにでも入れる鍵束を持っている。二人は駐車場に面するその通用口へ向かった。そこは階段を降りて地下だ。開けた瞬間、薄暗い空間にビリビリとした緊張が走っているのを二人の肌が感じ取る。入れないほどではないが、次元の抵抗があるのだ。

「やはり、遅かったか。」しかし美豆良からの切羽詰まった通信はない。何かあれば逃げろというはずだ。ハヤトも異変を口にする。「ここ、怖い。」つぶやくとマサミの後ろにピタリと寄り添った。「ついてきて。」マサミは人口次元に入った。

「ここは防御空間だ、大丈夫。」確認し、力を抜く。非常口をしめす非常灯だけがついた廊下。ビル内からは何の音もしない。人の存在などまるでないようだ。配線や空調が詰め込まれた地下室。今はビルのすべての生活機能が停止しているようだ。フェンスに分けられた二人が歩く狭い通路の反対側は積み上げられたローションの箱やバスタオルやバスローブの籠、洗濯物の巨大な袋、同じくパンパンなゴミ袋や積み上がった段ボール。倉庫を抜けると施錠されたドアが現れた。そこを開くと営業用のフロアがある。そこは特別な客に向けた、特別な部屋なのだ。

『んっ』施錠された鍵穴に鍵を差し入れたマサミは強い刺激を感じ『ここは更に2重に封印されている?』ことに軽く驚いた。強い抵抗を腹を据えて力一杯、鉄製のドアを開け放った瞬間、「まさか!」「マサミさんっ!?」喜悦の声と共に顔に強い光が浴びせられた。

「ほんとにマサミさんだぁ、良かったぁ~!」女の子が一人、飛びついてきてマサミは危うくバランスを崩しそうになる。「俺たち、助かったぞ!」後ろからも、聞き覚えのある声。明かりはスマホの明かり、女は同僚のヘルス嬢だとわかった。

「ちょっと、目がくらくらする。」ここも非常灯以外の明かりは消えている。

「あっ、すいません。」相手は持てったスマホを下げる。「あたしたち、ここに閉じ込められちゃったんだよ。」女の子が甲高い声をあげた。「もう、わけわかんない、マサミさん!どうなっちゃてるの?」「そうなんですよ。」若い男の声は従業員の一人だ。

「上にはいけないのか。」マサミは冷静に聞きながら、コビトを中に入れる。

「あれっ、マサミさん、その子は?」「まさか、マサミさんの子ぉ?」「バカ。」とかわす。

「マサミさんに子供なんているわけないだろ、ですよねぇ?。」

「お前ら、それどころじゃ、ないだろ!」一人だけ苛立った声、二人より少し年上の感じだ。

マサミは地下1階に閉じ込められていたのは合計3人だと知る。

「上はどうなってるんのかわかりますか?」その声に向けて、問う。

「ワカンねぇんですけどね、」答えたのは若い従業員。「怖くて上に行ってないんですよ。そもそも行けないし。」「あたしはさ、忘れ物しちゃってさぁ、戻ったら。」「まったくお前が忘れ物なんかするから。」「だって、お客がくれた指輪なんだよ、金なんだ、金。ロッカー室になんか置いといたら、誰かがパクるかもしれないじゃない。」女の連れはヒモらしい。

一斉にしゃべり出す。わかった、わかったとマサミは辛抱強く話させながら、場を鎮める。

その間、コビトは初めて知る人種の人たちにおっかなビックりマサミの腰にしがみついていた。

事情はよくわからないが、コビトにも異常事態がわかる。静かだが、静かすぎる。ここはあの学校の屋上と同じだと思った。人為的に作り出された平安な場所だと。閉じ込められた3人には漠然とした不安としか、わからないだろうが・・・コビトには(おそらくマサミも)何か異常なエネルギーが壁のコンクリートや鉄骨から染み出してくるのが感じられる。建物全体が悲鳴をあげているのだ。

「それでさ、君らは美豆良を見なかった?ここに来たと思うんだけど」それでもマサミの口調は普通だ。

「あっ、そうそう。」若者が急に思い出す。「そもそも美豆良さんに頼まれたんですよ。特別室に

おばさんを連れてけって。」「おばさん?」マサミにはわかった。「ここにいるのか。」

「はい、奥の部屋に。」マサミの手は後ろでコビトの体を叩く。田町裕子は無事だ。

コビトの目は不意に熱くなる。

女が早口で話し続けている。

「あたしが戻ったら、シャッターが閉まってるしさぁ、なんか通用口も開かなくなってたのよ。急に閉店だっていうのもおかしいとは思ったけど、まだ20分も経ってないのに変でしょ?だから業者のとこから入ったんだけどさ、ここまで来たら有田くんがウロウロしてて、上に行けなくなったっていうし。そしたら今度は出れなくなっちゃって。」「明かり消えちゃって、俺、戻ろうとしたんだけど、何か上も変だし。やめた方がいいかなって」従業員の有田くんは身震いする。

「変って、どんな風に?」マサミの声は鋭さを押し隠す。

「何かさぁ、うめき声みたいなのすんし。フロアに人の気配はすんだけど声とかは全然なくて・・・でも、人が大勢いる・・・みたいな感じだったんですよね。それが、上に上がってったみたいで・・・もうどうなってんのか。店から逃げようと思ったけど、ドアが開かなくて」

「そうか・・わかった。美豆良は上だね?」

「あっ、はい、多分。店長と一緒にいる、と思うっす。」

「・・・ひょっとして、殴り込みか、なんかなの?」

ヒモが声を潜めて聞くのでうなづいてみせる。

「同業者かもしれない。ヤクザを送り込むとか、言われてたらしいし。」

「マジすか!」3人は揃って声を殺す。「やばい、やばいよ、これ。」

「君らはすぐにここから逃げたほうがいい。」マサミが自分が抜けてきた倉庫の先を示す。

「鍵はかかってないから、今なら外に出れる。今夜は家でじっとしていた方がいい。」

それを聞くなり「おっし、行くぞ!」冗談きついぜと、ヒモが女の手を取りドアをくぐった。

「マサミさん、店大丈夫かな。まさか・・・」女の声は心配そうだ。「つぶれたりしないよね?」「明日、電話してみてよ。」「店長が・・ぶちのめされても・・・今月分はもらえるよねぇ・・」声と足音は一直線に遠ざかっていく。

「マサミさんはどうするんですか。」振り向くと有田がまだいる。

「美豆良を探すよ。君も早く、引き上げた方がいい。」

「ヤクザともめて・・・大丈夫なんですかね。あっ美豆良さんがついてるか。」

「あの店長は見かけによらずたくましいから、うまく丸め込むよ。美豆良は口も達者だしね。」

「確かに。違いないです。」ようやく笑顔を見せ、出口に向かうがまだ何か言いたそうだ。

「あの」「何?」足元を照らす有田のスマホの明かりが揺れる。

「美豆良さんとは、兄弟じゃないっすよね。」「従姉妹だよ。」「ああっ、すいません、変なこと聞いて、ただ、噂が、その・・・」「いいよ、顔が似てるからだろ?」

「そうなんすよ、それで」「付き合ってるけどね。」「あっ、そうすか。そうなんですか・・・」声が小さくなった。「あの」「まだ何か?」

「その子・・・美豆良さんとマサミさんの子じゃないんですよね。」

 

彼らが完全に遠ざかり建物から出るまでマサミはじっとしていた。

恐るべき精神力でじっと我慢していたと言っていい。

「面白い人たちだね。」コビトがフッと息を吐く。「この建物・・・振動している気がするけど。」「君はここに裕子さんといるんだ。」答えずマサミはコビトの手を引き、奥の部屋に走る。「中に入るとドアの脇に懐中電灯があるから。」「上に行くの!?」

階段に身を翻したマサミ。「気をつけて!マサミさん。」

わかってるさと有田が開けられなかった扉に手をかけた。

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