MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラル・スリー 第五章-4

2014-03-07 | オリジナル小説

         宙に潜む1人と1匹

 

(ナグロスは頑張ってるにょ!)ドラコがアギュの隣で感心していた。

(シドラはどこにいるにょ)アギュは真下の人物の話をもっと聞いていたかったが、後でナグロスの報告を聞けばいいことに気づき意識を切り替えた。

[ほら・・・あそこですよ]

すぐにシドラが見えた。ナグロスがいる南の和室からもう一室と廊下を隔てた客間らしき部屋に大きな和テーブルに男性と向かい合って座っている。

(どういうことにょ?ああいうのって見た事あるにょ~お見合いってやつみたいにょ。ナグロスと違って、こっちのお見合いはうまく行ってないみたいにょ~)

[ドラコ、シドラに知れたら怒られますよ。]アギュも笑いを噛殺した。

客であるシドラは床の間を背にそれとわかる仏頂面で座っていたからだ。

見るからに退屈そうにしか見えなかった。ナグロスからまずは自分一人でと言われて了承したのだろう。しかし、意識下ではナグロス達の会話は当然聞いていると思われるのだがその様子は外には伺い知れない。さすがだったが、目の前の相手と対することは困惑でしかない様子だった。しかも彫りの深い顔立ちのシドラはまったく和風な田舎屋敷の背景からは浮いていてシュールですらある。グラマスボディをピッタリとしたセーターに納め同じくピチピチのジーパンを履いた長い足が座る姿勢には邪魔でいかにも窮屈そうだ。正座をしていることも、かなりな無理をシドラに強いてた。

(こちらはまったく会話が盛り上がっていないのにょ~)

どらこがしきりに面白がる。

 

          シドラと若き色男

 

確かにシドラ・シデンはある意味、かなり後悔していた。

神月に居座った天使にベタベタ付き纏われるのが耐え切れず、この任務に自ら志願したことをだ。本来、相手のペースなど一切気にしないシドラであるが、所謂よく言う間の悪い思いというやつを今はひしひしと味わっている。

こんな役目はガンダルファにこそ押し付けるべきだったのだ。

目の前にいる男にわけもなくつくづくむかつくばかりだった。

好き嫌いがもともと激しいシドラであるが、これは生理的にダメというやつである。性別などあまり意味をなさない宇宙人類であるシドラにしても、相手の男だか女だかわからない感じには奇異を感じ得ない。これが惑星上(しかも今も愛しているユウリの故郷!)ではなく、宇宙空間でありしかも相手がニュートロン、すなわち宇宙人類であったならこれほど気にはならなかったはずだ。

さっきからずっと2人の間には重い沈黙が漂っている。

石油ストーブの上の薬缶の出す蒸気の音と時折、屋根から雪が落ちる音以外なにもしない。この家はテレビ、ラジオと言ったものが一切ないのだ。幼稚でくだらないあんなものは好きではないが、こういう時は都合がよい。パソコンの類いもない。電話すら見かけない。来る行程でも痛感したが辺鄙にもほどがある。隠れ里の実力とはこういうものなのか。

村に入る時、古くさい錯覚をもたらすだけの人為的な結界は既に効力を失っていた。それでもどこかに発生装置があるはずだった。ナグロスの話を意識下で聞きながらシドラはざっと見ただけの村の配置を思い返す。後でバラキにじっくり調べてもらわなくては。船がどこにあるのかだ。どこかに隠してあるはずだ。一緒に来たパートナーが持ち去っているとはシドラも思わなかった。地面の下だの、海の中だのに本気で放置したりもしていないはずだ。おそらく、次元の奥にキチンと隠しているのだろう。その可能性がもっとも高い。そうしてくれていれば、何かのついでに発見されてこの星の歴史を揺るがすことには絶対にならない。

船を隠しているならば、結界の発生場所はそこだろうとシドラは推理していた。

ふと、シドラが目を上げると目の前の相手と目が合ってしまう。

ずっと自分を見ていたのだろう。相手に能力があってもなくても、シドラ・シデンは常に思考にシールドをかけている。まさか、読まれはしまい。

するとふいに男がニッコリと笑いかけた。風貌も相まってなかなか魅力的な笑顔であったが、シドラはニコリとする気もしない。さっきからの頭の後ろの髪が引きつるようなチクチクする感覚がさらに強くなる。やはり嫌いだ、ムシが好かない。

話がないのなら、持って来たお茶を置いてさっさとどこかへ行けばいいのに。

シドラが力を入れ睨み返しても相手は見つめた視線を放さない。この星の常識で言えば、自分に惚れたのかと思うところだが・・・それはないとシドラの本能が告げていた。男が口を開く

「シドラさんは」。にやけた笑いを浮かべてなとシドラは思う。

「神代さんの姪御さんに当たるのですか?シドラ・・シドラ・スヴェンソンとは北欧系の名前ですが・・・?」「甥の嫁だ。」そっけなく答える。ブラジルで農場を営むナグロス・神代のシドラは弟の息子の嫁、兼秘書ということになっている。

「今回は、おじさんの通訳ですか。」

「ナグロスは通訳などいらん。」シドラは唸るように「ただ、方向音痴だ。我は道案内だ。」「シドラさんの方が先に日本にいたとか・・・」

「貿易会社だ。」今さら身上チェックだろうか。

実際はナグロスの到着の前に調べ上げていたのでは。

こいつは自分の先祖に当たる者達の事情をどこまで知っているのか。

シドラの正体をどこまで察しているのだろうか。

相手はしばし、愛想の悪過ぎる反応に考えを巡らすようだった。

「私の印象では・・・」男はコホンと咳払いをすると悪戯を仕掛けるかのようにシドラを上目遣いで見た。「ブラジルの女性は・・・非常にお盛んとか。」

「何がだ。」思い当たったがとぼける。

「わかるでしょう?男女のことですよ。」

「フン。」鼻で笑った。「それは人それぞれだろが。」関心はそれかと心で唾を吐く。

原始星の出身であるシドラは、この『果ての地球』におけるSEX事情についても一定の理解を示している。ただ、自分についてはガンダルファ同様、既に一段落したことと距離を置いてみていた。宇宙遊民ニュートロンはSEXなどは一部の遊民を覗いてもうほとんどしないし、原始星でも見境なくSEXに耽る衝動などは子供の時期の一過性でしかない。

なるほど、こいつの関心はそういうことかと納得すると先ほどからシドラの体を繁々と見つめるこの男の思惑にも納得が言く。勿論、それは愉快ではない。

「何を見ている?」喧嘩を売ってみた。何か誘いめいたことを口の端にでもほのめかしたならば、目にモノ見せてやろう。

「あなたを。」

「何が言いたい。」この星では女は平手で殴るものと聞く。間の机が邪魔だが。

「そうですね・・・ええと、別に。」

待ち構えるシドラの反撃を察したわけではないだろうが、どうやらようやく脈がないと判断したようだ。しかし、口元の笑いと視線を注ぐことは止めない。

「見られるのは不愉快だ。」「では、見ないようにします。」

男はあからさまに横を向いた。笑顔のまま。

横顔を睨みつけるしかなくなり、思わず舌打ちが出る。

こういう時はグーで殴るべきだろうか。

確かに奇妙な男である。どちらかというと整った顔をしている。切れ長の大きな目、すらりとした鼻梁、薄い妙に赤い口びる、細い首に乗った顔の肌の白さにサラサラと流れる肩までの髪。背は高くないが、体つきはしなやかだ。

なんだろう。そういう中性な外観はアギュに似ていなくもないがシドラはアギュの前でこんな居心地悪さは感じたことはなかった。性を感じさせないアギュと中性的なのに性を強烈に意識させるこの男の差・・シドラには見つからなかった言葉を例えて言うならば『退廃』あるいは『好色』だろうか。目には見えない汚れた染みが爽やかな彼の外観の上を覆い被さっているのだとでも。

それがシドラに嫌悪を感じさせていた。

そういった自分のすべてを今、この男は敢えてシドラに観察させているのだ。

それに気が付いたシドラは加速度的にこの男を嫌うことが止められなくなる。

目の前のお茶とやらを投げつけるという選択肢もあるなと、もっと何か喧嘩を売るべきか慎重に吟味していると外で雪を掻いているような音と雪を払うような気配がしてきた。

誰かが何か声を出している。続いて玄関の引き戸を開く音が響きわたった。

「来ましたね。紹介しますよ。」目の前の男が薄ら笑いを浮かべたまま立ち上がる。

「誰だ?」警戒するシドラに挑戦的に背を向けた。

「弟の雅己です。」「弟?」「正確には従兄弟ですが・・・もっと近しいものです。」

シドラにとっては思わせぶりなだけで不愉快な謎掛け。つい反射的に、立ち上がってしまった。ちくしょう。誰がおまえの弟など迎えになど出てやるか。

我はこの家の客ではないか。この星では客の優位性は揺るぎないはず。

再び鼻息を荒くしたシドラは部屋から出て行く男の背中を睨みつけ、勢いよく腰を下ろした。その間にシドラを期待しない境の障子が静かに閉ざされている。

 

 

 

           アギュと美豆良

 

そのとき。

廊下に出た若者はふいに顔をあげた。思ってたよりは若くない。首を傾けた。

その目はまっすぐにアギュへと向かう。目と目が合う。合うはずはないのだが。

アギュはドラコに引き上げる事を示す。慌ててワームも身を翻した。

その気配を感じたのか、シドラ・シデンが面倒くさそうにではあるがふっと辺りに視線を巡らす。しかし、バラキに問うまでではないと判断した。

その時には、既にアギュとドラコはその空間を離脱していた。

 

アギュとドラコは星固有の生命の作り上げる次元と呼ぶほどには育っていない空間の塊に紛れ再び、共同体の結界を急いですり抜けたがバラキは気が付かなかった。

しかし、出る時は入る時よりはやや乱暴だったのだろう。

ワームドラゴンバラキは自分の契約者の同僚であるガンダルファの契約ドラゴン、ドラコのことをふと考えた。考えるとは言っても次元生物であるバラキの思考は人間の思考とは似て非なるものと言える。言えるのだが、あえて人間の思考に近づけて綴るとする。(同様に先ほどのドラコとバラキの会話・・・ワームドラゴン同士でも『会話』なるものがあるのかどうかも断定はできまい。)

【あやつ・・・ドラコ】

なぜドラコのことを考えたのかは自身でも少し不信ではあった。【あやつは人間に育てられたワーム・・・人間臭くなりすぎているのは問題かもしれない・・・契約者が親になってしまったから・・・人間のほんの短い戯れの生を共にするだけなのに・・・我々、人間と契約するワームはもともと変わり者扱いだが】ここでバラキはかつて知っていたある仲間のことを思い出したようだ。ワームの胸にも痛みを感じるような想い出はあるのだろう。【人の生の終わりに付き従うこと等・・・愚の骨頂にすぎない・・・愚かな・・・愚かな・・・愚かな奴よ】焼け付くような何かにバラキはしばし囚われたのかもしれない。あやうく結界を押しつぶすところであったから。結界がわずかにきしみ、中にある鎮守の森に巣食う敏感な黒い鳥達が口々に騒ぎ、飛び立って辺りに散った。

 

アギュレギオンとワームドラゴンドラコは再び、神月の周辺に戻っていた。

(さっき、アギュはあわてたのにょ?どうかしたのにょ?)

ドラコの目・・・目を含む3000以上の感覚器官にはアギュは人型をした青い形として捉えられている。おおまかに言えば、人間は殆どがそうだ。物質肉体と同時に別の次元に同時に存在する精神的肉体(魂?)も常に一緒に認識している。

人の美醜はわからない。物質と精神が同時に放つエネルギーの色や温度や純度といったものはわかる。それは時には、人にとっての味や匂いのようなものとしても感じ取れる。アギュのような物質と非物質を行き来する存在は珍しいが、自分達次元生物と照らしてもそんなに違和感を感じたことはない。むしろなじみ易いと言って良い。

今アギュは、あきらかにその肌触りと言うか舌触りでもいい。先ほどと何かが違った。色は内から少し蒼く濃くなったような気がする。

ドラコはドラコなりに首を傾げた。これはアギュと再会してからずっと密かに感じていたことなのにゃ。人間であるガンダルファにはうまく説明できず、同僚バラキには鼻で笑われて吹き飛ばされかけた。大きいバラキはもともとメモリー自体が小さい人間の更に小さな変化等、感じ取れないのだ。個ワーム的にバラキがアギュを大して評価していないことも大きい。珍しい人間が産まれたもんだ、ま、ワームには関係ないし、くらいだろう。ましてカミシロユウリとは違い契約者のシドラ・シデンすら興味を持たなかった相手など歯牙にもひっかけていない。バラキがアギュの為に働くのはあくまでも契約者を通してだ。

またむっとするバラキのこと思い出して、ドラコは痒くなった体をヒレでこする。

きっとドラコはバラキアレルギーなのにゃ。

アギュは確かにすこし動揺していた。[アイツ・・あのヤロウ・・・]

それはアギュが放っている渦巻くエネルギーの変化からドラコにもわかる。

[オレに気が付いたかもしれない・・・やはりシンカタイ・・・それもかなりカンドの高い・・・]

(アギュ、どうしたにょ?)

アギュはハッと目を上げてドラコを見た。視線が揺れている。でもその非物質化したアギュの表面上の物質的変化は産まれ付き非物質であるワームの感覚では捉えきれない。ドラコの違和感はあくまで漠然としたものだ。

[ああ、ドラコ・・・]アギュは笑った。[大丈夫。ワタシは大丈夫ですよ。]

なんだかアギュは、また感じが変わったようだ。色が柔らかくなった?。

ドラコにはアギュの光はとても優しい手触りなのだ。

こういう普段のアギュは大変、心地よい。

あれは誰にょ?あの若造が気になっているアギュなのにょ?

鬼来美豆良]吐き捨てるようにアギュが言う。ドラコの感知気管がチクチクした。

確か、そんな名前です。

まあいいやとドラコはアギュのことはやはり深く追求しないことにする。

だって面倒臭そうなのにゃ。ひょうたんから駒が出て来てこれ以上、ガンちゃんに秘密を作ることになったら(ドラコだって契約を重視するワームなのにょ。)いくらなんだってとっても困る気がしたのだ。

(ふむ~にゅ。それって、アギュが気にしてるのはさっきのシドラの見合い相手にょ?不法移民の子孫なのにょ?あの人はバラキの存在とかはわかっているってことなのかにゃあ?)

[それは・・おそらく、さっきの逆でしょうか。小さいメモリーのモノはジブンに比例してあまりに大き過ぎるモノは探知しきれない公算が高い・・・彼のセンゾが特にワームドラゴンという存在をシソンに伝えている可能性はかなり低いですから、あらかじめ認識していなければ、おそらくわからないでしょう・・・ね]

(にょ~、面白そうなのにょ。じゃあ、ドラコもわからないかもしれないにょ?)[どうでしょう? バラキに較べるとドラコは小さいから・・・]

(小さいって言っちゃ怒るにょ!小さくてもピリリと辛いドラコにょ!それに人間からしたらもう、結構ドラコは大きいと思うのにょ? 前の魔族の人はドラコを伝説の龍だと言ってたにょ。だから、今度はドラコが単独で探ってはダメかにょ?)

[ダメです・・まだカレがテキかミカタかはっきりしませんから。今はナグロスとシドラに任せましょう]

(とか言っていたけど、さっき覗きに行ったのにょ。任せてないのにょ。)

[偶然ですよ、アソコへ行ったのは。ジブンでもどこまでできるか試してみたかっただけですから。まさか、あそこにシンカタイがいたとは驚きです。]

(ドラコは懸命だからそういうことにしといてあげるのにょ。ところで次はどうすにょ?)

アギュはドラコを見た。ドラコの8つの目はキラキラと期待している。このやり方ならば、お腹が減らないというのは本当らしい。アギュの感覚の中ではドラコはおそらく100・・・それどころか1000以上の次元に同時に存在していると感じられた。しかし、それは意識したものではあるまい。次元を生きるワームの持つ天性の能力なのだ。果たして、ワームに最も近いはずの臨海した人間である自分はどうなのだろうか。今のところ、ドラコに感知出来る次元の数、100ぐらいが限界か。

それらはこれからもっと増えて行くはずだった。おそらく。

今日はもうやめましょう](そうなのにょ?そう言っておいてドラコに黙ってどっか行ったりしないにょ?)[しませんよ。]アギュは微笑む。

アギュは少しづつブレを修正しベットに横たわったままの自分へと戻して行く。

また、試したくなったら呼びますから。と、言ってもドラコならすぐに気が付いてしまうでしょうけど。

そうなのにゃ。ドラコから逃れられると思ったら間違いなのにょ

 

2週間前、アギュの初めての試みはそうやって終った。

その時のアギュはシドラとナグロスの仕事が思わぬ展開によって挫折するとは夢にも思っていなかった。

勿論、当事者のシドラとナグロスもだ。

そしてこの時は外野にいた、ガンダルファもタトラも。

その話は後の章で詳しく述べることとする。


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