MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

宝物の話

2019-03-24 | 絵葉書

© 小林美風『コップとお皿展』

 

 

 

 

兄から聞いた話です。

 

母のことはすでに書いていますが

それとは別に

うちはそれぞれが距離のあった家族でした。

兄は18で、私も20で。

まるで競争するように家から逃げ出しました。

それから父親が脳梗塞で倒れるまで

家族全員が揃うことはありませんでした。

 

やがて、父はアルツハイマーと診断されます。

父の入所した階は徘徊を防ぐために施錠されていました。

入り口で看護師さんに面会票をわたして開けてもらうのです。

その頃、まだ父は自分で歩くことができていました。

見舞いに行った日のこと。

 

滅多に来ない兄に喜んだ父は

子供のようについて回ったそうです。

服をつかんで看護師さんに紹介して回りました。

「これ、宝物」「宝物」

言語に症状が進んできていた父には

息子とか長男とかいうフレーズが

浮かばなかったのでしょう。

 

『タカラモノ』

 

 

 

 

 

。。。。。。。。。。。。。。 

それまで見舞いを母と私に任せきりだった兄が

ある時期から急に

父のことを常に気にかけるようになったこと

当時の私は不思議に思っていたものです。