© 小林美風『コップとお皿展』
兄から聞いた話です。
母のことはすでに書いていますが
それとは別に
うちはそれぞれが距離のあった家族でした。
兄は18で、私も20で。
まるで競争するように家から逃げ出しました。
それから父親が脳梗塞で倒れるまで
家族全員が揃うことはありませんでした。
やがて、父はアルツハイマーと診断されます。
父の入所した階は徘徊を防ぐために施錠されていました。
入り口で看護師さんに面会票をわたして開けてもらうのです。
その頃、まだ父は自分で歩くことができていました。
見舞いに行った日のこと。
滅多に来ない兄に喜んだ父は
子供のようについて回ったそうです。
服をつかんで看護師さんに紹介して回りました。
「これ、宝物」「宝物」
言語に症状が進んできていた父には
息子とか長男とかいうフレーズが
浮かばなかったのでしょう。
『タカラモノ』
。。。。。。。。。。。。。。
それまで見舞いを母と私に任せきりだった兄が
ある時期から急に
父のことを常に気にかけるようになったこと
当時の私は不思議に思っていたものです。