MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-23

2018-01-24 | オリジナル小説

黒幕

 

 

デラが見上げた上空。アギュレギオンは前回もいた物質世界の果てに潜んでいる。

そこは418ことカプートが『神』といみじくも言ったように物質界の全てが見通せる『神の座』であった。アギュがみたいもの、まさに下界で起こることが全て同時に捉えることが可能なところ。大きなことから些細なことまで、隠していること隠されていること、それが地球の裏側であろうが大地の地下であろうが、情報が全て同時、同列に並んで閲覧できる。

もちろん、それを監視し全て把握するには受け手の能力が絶対条件になる。

物質である肉体が精神と一つになりつつある臨界進化体、アギュレギオンこそ、その担い手にふさわしい。

 

今、深夜。関東の山間部のある廃校に大きなエネルギーが瞬いて消えた。イリト・デラたち、宇宙人類が魔物を罠に落とし込むための擬似ブラックホールが発動したのだ。

少女愛好者の殺人者に長年、取り憑いていた無名の魔物。その魔物が罠に吸い込まれる、その瞬間、わずかなタイミングでそこから脱出した巨大なエネルギー体があった。

アギュレギオンはそれを待っていた。

アギュは一気に馳せ下る。猛禽のように爪を立ててその未知のエネルギーに襲いかかった。

未知の存在は瞬時に方向を変え、(存在次元を変換し)逃げようとする。

アギュは逃すまいとする。その時、おかしなことが起きた。

アギュの体が量子レベルまで分解し、それが網のように相手を包み込んだのだ。

意識してやったことではない。何としてでも捕まえたいと思ったアギュの執念がアギュの肉体を一気に変化させた。

今まで、どこかで無意識に歯止めをかけていた臨界化が頂点に達した瞬間であった。

それをアギュが自覚するのはもっと後、落ち着いてからのことだ。

今は興奮した彼に分析は出来ない。

「さぁ、ツカマエました!」アギュは高らかに叫んでいる。

「デモンバルグ!」

そう、それは・・・魔族の中の魔族。もっとも古い悪魔であるデモンバルグだったのだ!

「カンネンしなさい、もう逃げられません。」

アギュに取り込まれた黒い冷たいエネルギーは怒りでぐるぐると旋回し・・・デモンバルグになった。「くそっ!なんでわかった?!」

「なんで、わかったって!?オミトオシに決まってるだろ。コソコソと!やけにオトナシクしてると思ったからな!」

「くそっ!」悔しくてたまらないと言った風情でデモンはアギュからようやく解放される。

「おかしなことしやがって!どう言う技さ?」

「オレがオマエを捕まえたいと思えば、フカノウなんてないんだ。わかったか!」

そう言いながらも、少し冷静になったアギュはデモンバルグに距離を取る。

果たして自分はどうやってこの魔族を阻んだのかと首をかしげつつ。

「スズキトヨ、あのコドモがオマエのアキレスケンなんだ?違うか?」

デモンバルグは無言で恨みがましくアギュを見る。図星の証だ。

アギュは肯定を待たない。「オマエは常にあのコドモを殺したがっていたからな。わからないとでも思ったか?」畳み掛ける。「オレはイゼン、4大テンシのキオクを旅したんだ。オマエは確かにワタルに入ったタマシイを守っていた。だけどそれに対になるトヨのタマシイを注意深くハイセキしていただろう。コンカイ、ワタルのすぐ近くに産まれ過ぎたと思って気が気じゃなかったはずだ。オマエはワタルとトヨを会わせまい、会わせまいとしていた。だから、オレがこのハル、会わせてやったのさ!オマエは焦っただろ?焦って、きっとコウドウに出ると思ってた!」

ケッとデモンバルグは悪魔の唾に相当するものを吐いた。彼の怒りは長年の天敵に向く。

「全く!役にも立たない天使どもがっ!こういうときに限って余計なことをしやがる!」

「ワタシには充分に役に立つソンザイです・・・アナタはどうだか知りませんが。」

これは二人が混沌から戻った時の旅のことを言っているらしい。

それに対しデモンバルグはフン!と鼻を鳴らすだけを答えとした。

「テンシのキオクはあくまでテンシが把握しただけのアナタのキロク。テンシが見なかったところでアナタが何をしたかまではわからない・・・コンカイのように。」

アギュはまた頑固に口を閉じたデモンを見る。

「オマエは・・・カミシロレイコも殺したのか?」

「はっ!まさか!」さすがにたまらずデモンバルグの口元が歪む。

「あの時は二つの魂には距離があったさ。わざわざ、そんなことするか。天使の記憶を見たなら、ヒカリ、おまえだって知ってるだろが?」

「フタツのタマシイは互いに引き合おうとする・・・チガイますか?アナタはそれを恐れている。テを汚すまでもない・・・すでに今度のように・・ウラからテを回していたらば。」

デモンバルグは嘆かわしいといいたげに頭を振る。

「誓ってもいいさ、それほど暇じゃないさ。」

二人は渦巻く次元の粒子の中で、しばらく睨み合った。

「ほら、ポチが待ってるぞ。」(ポチじゃないにょ、ドラコにょ!悪魔、失礼にょ!)

「そうだ、お前が飼い主じゃぁなかったな。飼い主は・・・」

「ドラゴン・ボーイだ。」ガンダルファはため息をつく。またがってカッコがつくほどドラコがまだ大きくないからだ。「タツノコ太郎。」ほら、痛いところを突かれる。

「言うな。悪魔、現行犯逮捕だかんな。」ガンダルファが腕をつかむ。「逮捕?」「言葉の綾だ。アギュに言われてあんたの動向を見張ってたんだよ。」(主にドラコがにょ!)

「そうだろうよ。」デモンはふてくされる。

「ガンダルファじゃ、キヅカレテしまいますからね。メモリーのリョウで・・」

「つまり、お前がちっさいってことだぞ。」と飼い主、もとい契約者の言葉にドラコが怒る。

(ドラコだって精一杯、これでも大きくなったのにょ!)

「須美恵さんとデート旅行と見せかけて、隙を見ちゃ、ちゃっかり自分を飛ばしてただろが。

全く、マメなんだか。」デモンバルグは肩をすくめた。今も彼のハリボテは熱海で須美恵の横に眠っている。「俺って結構、真面目で誠実な悪魔なんさ。」

「さぁ、行こう。デモンバルグ・・・事情聴取だ。」

「事情聴取って、俺が何やったかはもうわかってるんだろ?そこのヒカリが。」

「ワカッテテも。」

別件逮捕でもってこの際、デモンバルグが抱えている二つの魂の秘密を残らず吐き出させてしまおうとアギュが目論んでいることは相手にもお見通し。

「やなこった!」デモンはじりじりと後退する。「言っとくけど、あの人間は俺が近づく前から悪いもんに取り憑かれていたのさ。俺はちょっと力を貸してやっただけ。」

「変態くんの暴虐極悪リストに鈴木トヨを滑り込ませたんだろ?」ガンダルファが再び、腕を掴みデモンはそれを放そうとつかみ合う。ドラコはその周りをくるくると回る。

「俺がやったのはそれだけさ。あとはあのド変態野郎とチンカス魔族の意思ってことさ。」

「トヨくんは譲と香奈恵の義理の弟だぞ!それを殺そうと企むなんて!」

「知るか!こっちにはこっちののっぴきならない事情があるんさ!」

「だから、その事情ってやつをだな・・・吐け!!」

吐いちまえ!

吐くもんかよ!

 

ガンダルファとデモンバルグがじゃれてる?間、アギュは不意に無言になる。

彼と418は急に落ち着かなくなった。

「マテ!」たまらず、二人と1匹に叫ぶ。「ナニか、感じないか?!ナニカが近づいている?」

「へっ?」と悪魔とドラゴンボーイは動きを止め、ワームドラゴン、ドラコだけが共鳴した。

(来るにょ!ドラコも知らない、未知の次元生物にょ?!)

アギュレギオンがそれまでいた空間、そのすぐ際から・・・非物質世界から何かが近づいてくる。深い次元の空間が見る間に盛り上がっていくのを彼らは息を飲んで見つめる。