気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

てのひらを燃やす  大森静佳 

2013-07-04 18:34:58 | つれづれ
もみの木はきれいな棺になるということ 電飾を君と見に行く

これは君を帰すための灯 靴紐をかがんで結ぶ背中を照らす

地下書庫に棚を動かすボタンあり『野火』の背にふれし指先で押す

マネキンの脱衣うつくし夜の隅にほの白い片腕をはずされ

彫り深き秋とおもえり歳時記の挿し絵に鳥はみなつばさ閉じ

言葉より声が聴きたい初夏のひかりにさす傘、雨にさす傘

モノクロの写真に眼鏡の山は見ゆ死とは視界を置いてゆくこと

眼と心をひとすじつなぐ道があり夕鵙などもそこを通りぬ

ひらくものきれいなまひる 門、手紙、脚などへまた白い手が来る

どこか遠くでわたしを濡らしていた雨がこの世へ移りこの世を濡らす

(大森静佳 てのひらを燃やす 角川書店)

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大森静佳の第一歌集『てのひらを燃やす』を読む。
2010年、「硝子の駒」で角川短歌賞を受賞した連作にはじまり、学生時代の四年間の歌が収められている。一言で言えば、相聞歌集。若い一時期にしかできない歌が、眩しく迫ってくる。しかし、相聞以外にも独自の視点で表現された歌があり、今回は相聞以外の歌から、特に優れていると思ったものを引いてみた。

一首目。三句目から四句目にかけて、句またがり句われがある上、一字あけまでして強調していて、面白い作りの歌。棺と電飾の取り合わせが意外。
三首目。『野火』の書名の選択が良い。危険なボタンに触れたような不穏さが感じられる。
四首目。題材の選び方が面白く、すこし怖く美しい。
六首目。上句は肉感的なものを欲しているようにも読めるが、言葉、声なので清潔感がある。下句、日傘と雨傘の対比が効いている。
七首目。眼鏡の山に対する把握がユニーク、死者の思い(無念さ)を示唆しているのだろうか。
八首目。夕鵙を登場させて詩情を感じさせる。
九首目。上句はひらがなばかりで、下句には「、」が出て来て、表記に工夫がありる。白い手は謎。
十首目。作者は、あの世かこの世か、どこにいるのだろうかと不思議さを感じさせる。
この歌集のキーワードは、手。あとがきには、「人間にできる最も美しいことと最も醜いこと、そのどちらにも手が関わる」とある。
今後、相聞はもちろんのこと、いろいろな題材を独自の視点で表現して行ってほしいと思った。


今日の朝日歌壇

2013-07-01 19:05:50 | 朝日歌壇
水路より出て信号を無視したる鴨にはじまる梅雨の渋滞
(島田市 水辺あお)

備忘メモ掌(てのひら)に書く母なりき逝きたる日にも「切手」とありぬ
(東京都 烏山みなみ)

はぐれてる自分を探す手つきして若きらずっとスマホ操る
(群馬県 小倉太郎)

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一首目。歌の前半を読んで、何だか乱暴な人だと思っていると、主人公は鴨。渋滞の原因が鴨というのは、よく聞く話題ではあるが、やはり微笑ましい。上から下へとストーリーがうまく運んでいる。
二首目。亡くなられたお母さまは、ずっとご病気だったのか、急なことなのかはわからないが、切手を買いに行けるくらいには、お元気だったのだろう。その切手を貼った便りはどこ宛てだったのだろうか。作者とともに、私たちも想像して切なくなる。
三首目。いつの間にか、携帯電話はスマホの時代になったようだ。携帯とスマホでは操作が違うので、手つきも違ってくる。自分探しは、やや言い古されたフレーズではあるが、時代を反映した歌だと思った。