気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

ピカソ

2005-07-08 12:30:46 | つれづれ
コワレモノなのか壊れたものなのかどちらか分からぬままに扱ふ

くじ運の悪い奴から順番に消されてゆくが道理、しかしだ

あつちから視ればこつちもやはりこのピカソくらゐは歪んでゐよう

お子様はいつからそんなに偉いのかランチのうへに小旗は紙の

咲きたると同じ数まで散りゆかむそをいつとなく庭に見てゐし

(資延英樹 抒情装置)

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資延さんは、1957年生まれだからまだ40代。
がんばったらそれだけ良い結果が出るだろうと、願って生きてきたが、どうもそうでもないらしい。人生の折り返し点をすぎるころ、なんとなく損してるような気になっておられるような・・・私も同じだ。
題詠マラソン、資延さんもそろそろ走りだされた。こちらも、ペースを保ってなんとかせんならん。

金太郎飴と呼ばれていつまでも金太郎の顔してゐる世過ぎ 
(近藤かすみ)

月球儀

2005-07-07 18:51:34 | つれづれ
わが部屋の月球儀の翳に夫(つま)たちて受刑者のごとく微笑みてをり

うつくしきものなべて無意味と断じつつ赫き赫きマニュキアをぬる

はじめに言葉ありつひには歌のなき国へゆくかろきパラソルまはしつつ

涙壷とよばるるうつはありローマびとのこころゆかしき 朝焼を見つ

塚本邦雄論たたかはせしのち驟雨過ぐ たまさかの二層の虹

(橘夏生 天然の美)

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夏生さんは、綺麗なものに囲まれて暮らしておられる。現実まみれだった私は、夏生さんを知って、少し変わった。

たらちねの母の日傘はくるくるとまわつてまつて空のぼりゆく
(近藤かすみ 題詠マラソン2004)

イエライシャン

2005-07-06 21:52:57 | つれづれ
だまされて蟹がもらひし柿のたねビールのつまみにわがかじりをり

バラライカの三角胴はをりをりに露西亜をとめの脇腹刺さむ

前足に遅れずとしてうしろ足けんめいうごく横長の犬

人の気配感知して灯る門灯ありぶきみなるしかけとわれ思はむか

夜を知るイエライシャンの五裂花(ごれつくわ)はわたくしまへににほひはじめぬ

(小池光 青葉の中へ 短歌7月号)

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府立図書館で例のごとく「短歌」を閲覧して帰宅。夕刊(朝日)をひらくと小池さんの写真に出会う。今月も締め切りに間に合うように、歌を送ることが出来てよかった。

目に映ったちょっとしたことを、大仰に歌にするのも歌人の仕事。イエライシャンという花を知らなかったが、ネットで調べてわかった。イエライシャン→夜来香→李香蘭→三時のあなた→高峰三枝子と連想はすすむ。「わたくしまへに」というところから、わたくしだけのために花が匂うという作者の解釈がわかる。


天然の美 橘夏生歌集

2005-07-05 22:19:56 | つれづれ
なだらかな雲の波なるアルペジオわがために来し夏ぞとおもふ

うつそみのをみななるわれうとましく今朝くれなゐの罌粟散るを聴く

父死にし齢(よはひ)にじよじよに近づきて冷し素麵に生姜をおとす

あかねさす昼食(ひるげ)の粥に塩おとしつかのまおもふ海にふる雪

悦楽の悦といふ語に兄といふ文字みつけたる夏のいもうと

(橘夏生 天然の美 雁書館)

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短歌人誌「わたしは誰でしょう」の賞品として、橘夏生さんの歌集をいただく。
軽快耽美派といわれる夏生さんの美意識の原点を見る思いで歌集を読み始める。

関西短歌人会では、何度もご一緒しているが、私自身が短歌に関わるまでは彼女のようなタイプの女性を知らなかった。初めて歌会&二次会に出た三年前、橘さん大橋さんの会話に驚いた。

「死ぬまでは父と娘やゆるされて雲の名前を数へあひたり」・・・これは先月の歌会での夏生さんの歌。余談だが、これを聞くたびに涙が出る。もうパブロフの犬。


今日の朝日歌壇

2005-07-04 19:39:36 | 朝日歌壇
シュレッダーに会議資料が呑まれゆく思い出せない今朝見た空は
(調布市 水上芙季)

「さらばとは永久に男のことば」とて牡丹はふかく頷きて散る
(長崎市 平井俊子)

憩うならいっそ殻をも脱ぎ給えこうも暑きをやよ蝸牛
(大阪市 池知ひさし)

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一首目。シュレッダーは記録を裁断する。会議資料を裁断しながら今朝見た空を思うという取り合わせの妙味。これで思い出したのが、小池光の「機械山羊に紙を食はしむるたのしみや機械山羊とはシュレッダーなり」
二首目。塚本邦雄への挽歌。塚本邦雄の歌は「固きカラーに擦れし咽喉輪のくれなゐのさらばとは永久に男のことば」
三首目。ことしの夏は6月からやたらに暑い。結句の「やよ」という呼びかけがいい。


来てお茶をのめ

2005-07-02 22:32:54 | つれづれ
ちからいつぱいの 仕事にかゝる たのしみが きみにわかるか 来てお茶をのめ
(大熊信行 母の手)

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明日の短歌人会関西歌会で大熊信行のこの歌について、一言話すことになっている。
なんとかせんとあかん。それやのに、ついついネットでお菓子を探してしまう。
画像は鼓月のお菓子で可甘水(うましみず)というらしい。

抒情装置 資延英樹歌集

2005-07-01 12:25:07 | つれづれ
世界からわたしを消すならそれはそれ世界のひとつのあり方である

いつだつてやられなくてもよかつたと思ふ側から犠牲者は出る

戻つては来ない舟だとわかつてて積まれなかつたロープがあつた

ムダにした時の重さがあるからにここまで歩いてきたとも言へる

ふらふらと入り来たりける裏道が表参道だつたりするから

(資延英樹 抒情装置 砂子屋書房)

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未来の資延英樹さんの第一歌集。某カルチャーセンターや題詠マラソンでご一緒しているご縁で、歌集を送っていただく。ありがとうございます。
ハトロン紙掛けフランス装で、函入りという豪華な体裁。帯には岡井隆の「あつといふまに現代短歌のコツをのみこんだ、最優秀の生徒である」との解説が載っている。

歌集は逆編年体を旨として作られている。2003年未来賞受賞作、題詠マラソン2004からの作品があり、私も同じ題で作ったことを思った。歌集の前半(最近作)の方が面白い。つまりどんどん成長してここまで到った人だと思う。旧かなで、文語から次第に口語に重心が移動してきている。ものの考え方のすっきり冷たいこと、言葉の扱いが自在なこと、なにより若さが魅力のひと。

「ムダにした時の重さ」「裏道が表参道」・・・おくれて短歌をはじめた人間には、身に沁みるフレーズ。ますますのご活躍を期待する。そして、みなさん、買って読んでください。

早熟がもて囃されるこの国で一周おくれの青春をする
(近藤かすみ)