気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2014-06-16 17:39:03 | 朝日歌壇
端正な父の手紙も走り書きの母のはがきも風入れの季(とき)
(大分市 岩永知子)

欅坂欅の陰は浅くして五月のバスは遅るるがよき
(可児市 三田村広隆)

等伯の松林図屏風の奥に見ゆ凪ぎてやさしき故郷の海
(石川県 瀧上裕幸)

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一首目。風入れとは、夏の季語で虫干しのこと。衣類だけでなく古い手紙などにも空気をあててやる。作者のご両親が存命かどうかはわからないが、丁寧に手紙やハガキを残していて、折りに触れて眺めてられることがすばらしい。何よりの親孝行だ。ご両親の性格や暮らしぶりまでわかる気がする。
二首目。欅坂と呼ばれるほど、多くの欅のある場所なのだろう。まだそれほど葉が繁茂していないから、陰は浅い。その分、風が爽やかに通りそうだ。バスを待つひとときが楽しく、むしろ遅れた方がいいと思えるような気分。初夏の空気を存分に楽しむ作者が見える。
初句二句の「欅坂欅の」あたり、画数の多い字が詰まっているので、欅のどちらかをひらがなにすると風通しがよさそうだ。
三首目。長谷川等伯の松林図屏風をよく知らなかったので、ネットで見に行ってきた。水墨画で、私には海らしきものは見つけられなかった。作者は、心の眼で見たのだろうか。それにしてもこの「見ゆ」という言葉の上品なこと。短歌をやっていなかったら、「見ゆ」という言葉に死ぬまで出合うことはなかった。言葉の品を大切にしたいものである。

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