気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

起伏と遠景  川本浩美

2013-09-19 21:35:25 | つれづれ
子に会ひに産院へゆく 秋の雨にけぶるいつぽんの川をわたりて

いつかどこかの避難所のさむき床のうへに天皇の手を握りてわれは

イルミネーションくまなく飾る一戸建て満艦飾の艦はさすらふ

みつちりと高野豆腐の盛られたる大皿しづか法事の席に

ノコギリに荒城の月弾く聞けば世紀をわたるかなしみひとつ

ゆふぐれの公園に来てさびしからずタコの滑り台をすべらむわれは

大阪は思つてゐたよりうつくしく通天閣の灯るゆふぞら

ひともとのさくらまづしくアパアトの「しあわせはいつ」に散りかかりをり

岡本玉眼科 その玉は何 椿のはな踏みつつ過ぐるみちのべにして

パルナスのかすかなる店の閉ぢたるに逢ふごとく来し散歩とおもふ

ぶらんこのくさりの錆をてのひらに嗅ぐときふかく日暮れは来たり

(川本浩美 起伏と遠景 青磁社)

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今年の2月1日に52歳で急逝した川本浩美の第一歌集にして遺歌集が、出版された。
川本さんとの縁は深い。私が短歌人関西歌会に行き始めた2002年ころからの付き合いだ。関西歌会に行くと、遅れてバタバタと川本さんが来て、あわててホワイトボードに自作を書いて、歌会に参加していた。その批評は鋭く、川本さんの一票を頂ければ満足したものだ。
私の第一歌集『雲ケ畑まで』の批評会にパネリストをしていただくようにお願いしていたが、叶わなかった。去年の忘年歌会のときは、元気でまさかこんなことになるとは、思いもよらなかった。
出来上がった歌集が届いたとき、開けるのがこわい気がした。いままでの歌会でのことを思い出して、懐かしくまた悔しくてならなかった。
歌集は、逆編年体で編まれている。前半の歌は歌会や短歌人誌で読んでいたので懐かしく、その独特の味を再びかみしめるように読んだ。

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