居眠りの人は電車が揺れるたび荷物と同じ向きに傾く
菜の花のようにあかるい卵焼き弁当箱のすみっこに春
本箱に昭和とともに生きてきた母の残した『暮しの手帖』
ラジオより『ハンガリー舞曲』聴く朝はシーツをぱぱんと干して晴天
どこにある馬淵のり子の終点は花の雨ふる四月におもう
「ぼうけん」で終わるしりとり小一の君の冒険これからはじまる
なるようになると思えり蓮根をのぞけば幾つもの抜け穴ありて
その靴は今にも走り出しそうに脱がれていますこれは事件だ
そっと置くものに音あり小説のはじまりのような初雪が降る
雪降れば地蔵に笠をかぶせゆくそんなあなたとふたりの暮らし
(馬淵のり子 そっと置くもの 六花書林)
*************************************
短歌人の馬淵のり子の第一歌集。一読すんなりわかる歌で若々しい。発見がある。一首に多くを語らない。母ゆずりの本好き。お孫さんの歌があるのに年寄りくさくはならないのは、ありがちな過剰な期待がないからだろう。自然体で物事を受け入れている。「ぱぱんと干して晴天」「これは事件だ」などのフレーズが面白い。ふと杉崎恒夫の歌を思った。『パン屋のパンセ』『食卓の音楽』。
菜の花のようにあかるい卵焼き弁当箱のすみっこに春
本箱に昭和とともに生きてきた母の残した『暮しの手帖』
ラジオより『ハンガリー舞曲』聴く朝はシーツをぱぱんと干して晴天
どこにある馬淵のり子の終点は花の雨ふる四月におもう
「ぼうけん」で終わるしりとり小一の君の冒険これからはじまる
なるようになると思えり蓮根をのぞけば幾つもの抜け穴ありて
その靴は今にも走り出しそうに脱がれていますこれは事件だ
そっと置くものに音あり小説のはじまりのような初雪が降る
雪降れば地蔵に笠をかぶせゆくそんなあなたとふたりの暮らし
(馬淵のり子 そっと置くもの 六花書林)
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短歌人の馬淵のり子の第一歌集。一読すんなりわかる歌で若々しい。発見がある。一首に多くを語らない。母ゆずりの本好き。お孫さんの歌があるのに年寄りくさくはならないのは、ありがちな過剰な期待がないからだろう。自然体で物事を受け入れている。「ぱぱんと干して晴天」「これは事件だ」などのフレーズが面白い。ふと杉崎恒夫の歌を思った。『パン屋のパンセ』『食卓の音楽』。