気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

そっと置くもの 馬淵のり子 六花書林

2022-02-02 22:52:13 | つれづれ
居眠りの人は電車が揺れるたび荷物と同じ向きに傾く

菜の花のようにあかるい卵焼き弁当箱のすみっこに春

本箱に昭和とともに生きてきた母の残した『暮しの手帖』

ラジオより『ハンガリー舞曲』聴く朝はシーツをぱぱんと干して晴天

どこにある馬淵のり子の終点は花の雨ふる四月におもう

「ぼうけん」で終わるしりとり小一の君の冒険これからはじまる

なるようになると思えり蓮根をのぞけば幾つもの抜け穴ありて

その靴は今にも走り出しそうに脱がれていますこれは事件だ

そっと置くものに音あり小説のはじまりのような初雪が降る

雪降れば地蔵に笠をかぶせゆくそんなあなたとふたりの暮らし

(馬淵のり子 そっと置くもの 六花書林)

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短歌人の馬淵のり子の第一歌集。一読すんなりわかる歌で若々しい。発見がある。一首に多くを語らない。母ゆずりの本好き。お孫さんの歌があるのに年寄りくさくはならないのは、ありがちな過剰な期待がないからだろう。自然体で物事を受け入れている。「ぱぱんと干して晴天」「これは事件だ」などのフレーズが面白い。ふと杉崎恒夫の歌を思った。『パン屋のパンセ』『食卓の音楽』。

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