気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

疾風の囁き  村田馨 

2009-03-14 00:00:14 | つれづれ
新緑の糺の森にゆったりと馬あゆみゆく紙垂(しで)を揺らせて

的中に観客は沸き 的奉行、采揚(ざいあげ)、矢拾(やひろい)、せわしく動く

漆黒の弓から弦音放たれて一本の矢が夏を貫く

ひとすじの紅を冷たき頬に入れ母の旅立ち見送る夕べ

亡き母の遺しし短歌(うた)を愛唱す誰に伝えるわけでもないが

大ぶりの水蜜桃をむきながらふたりで過ごす朝の食卓

砂時計ひっくり返されるたびに折り畳まれてゆく時間軸

夏帽子斜めに被り目をやれば面影橋に都電が走る

(村田馨 疾風の囁き 六花書林)

**************************

村田馨の第一歌集『疾風の囁き』を読む。
短歌人会の先輩である村田さんは、鉄道関係のエンジニアでありながら、弓、乗馬、短歌と多彩な趣味を持っておられる。そのうえ、家庭的。どこにそんなパワーがあるのか不思議になる。
彼の人生の豊かさがそのまま歌になっている。お母さまが歌人の筒井富栄さんなので、自然と歌の世界にも入られたようだ。

一首目から三首目は、京都下鴨神社の糺の森での流鏑馬の様子を歌にしている。紙垂、采揚、矢拾といった言葉がおもしろい。三首目の結句、「夏を貫く」が潔い。
四首目、五首目は、お母さまを見送られたときの歌。歌人のこころはしっかりと受け継がれている。
砂時計の歌は、短歌人の全国集会で見た記憶のある歌だ。砂時計というのは、時間を計りながら折りたたむという不思議なもの。砂が落ちていく様子を見ていると、折り畳むという表現に納得する。



最新の画像もっと見る