新緑の糺の森にゆったりと馬あゆみゆく紙垂(しで)を揺らせて
的中に観客は沸き 的奉行、采揚(ざいあげ)、矢拾(やひろい)、せわしく動く
漆黒の弓から弦音放たれて一本の矢が夏を貫く
ひとすじの紅を冷たき頬に入れ母の旅立ち見送る夕べ
亡き母の遺しし短歌(うた)を愛唱す誰に伝えるわけでもないが
大ぶりの水蜜桃をむきながらふたりで過ごす朝の食卓
砂時計ひっくり返されるたびに折り畳まれてゆく時間軸
夏帽子斜めに被り目をやれば面影橋に都電が走る
(村田馨 疾風の囁き 六花書林)
**************************
村田馨の第一歌集『疾風の囁き』を読む。
短歌人会の先輩である村田さんは、鉄道関係のエンジニアでありながら、弓、乗馬、短歌と多彩な趣味を持っておられる。そのうえ、家庭的。どこにそんなパワーがあるのか不思議になる。
彼の人生の豊かさがそのまま歌になっている。お母さまが歌人の筒井富栄さんなので、自然と歌の世界にも入られたようだ。
一首目から三首目は、京都下鴨神社の糺の森での流鏑馬の様子を歌にしている。紙垂、采揚、矢拾といった言葉がおもしろい。三首目の結句、「夏を貫く」が潔い。
四首目、五首目は、お母さまを見送られたときの歌。歌人のこころはしっかりと受け継がれている。
砂時計の歌は、短歌人の全国集会で見た記憶のある歌だ。砂時計というのは、時間を計りながら折りたたむという不思議なもの。砂が落ちていく様子を見ていると、折り畳むという表現に納得する。
的中に観客は沸き 的奉行、采揚(ざいあげ)、矢拾(やひろい)、せわしく動く
漆黒の弓から弦音放たれて一本の矢が夏を貫く
ひとすじの紅を冷たき頬に入れ母の旅立ち見送る夕べ
亡き母の遺しし短歌(うた)を愛唱す誰に伝えるわけでもないが
大ぶりの水蜜桃をむきながらふたりで過ごす朝の食卓
砂時計ひっくり返されるたびに折り畳まれてゆく時間軸
夏帽子斜めに被り目をやれば面影橋に都電が走る
(村田馨 疾風の囁き 六花書林)
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村田馨の第一歌集『疾風の囁き』を読む。
短歌人会の先輩である村田さんは、鉄道関係のエンジニアでありながら、弓、乗馬、短歌と多彩な趣味を持っておられる。そのうえ、家庭的。どこにそんなパワーがあるのか不思議になる。
彼の人生の豊かさがそのまま歌になっている。お母さまが歌人の筒井富栄さんなので、自然と歌の世界にも入られたようだ。
一首目から三首目は、京都下鴨神社の糺の森での流鏑馬の様子を歌にしている。紙垂、采揚、矢拾といった言葉がおもしろい。三首目の結句、「夏を貫く」が潔い。
四首目、五首目は、お母さまを見送られたときの歌。歌人のこころはしっかりと受け継がれている。
砂時計の歌は、短歌人の全国集会で見た記憶のある歌だ。砂時計というのは、時間を計りながら折りたたむという不思議なもの。砂が落ちていく様子を見ていると、折り畳むという表現に納得する。