気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

地球光  田中濯

2011-03-27 02:42:16 | つれづれ
片輪を路肩にあげた車たちひとつひとつにやどる陽炎

ぎざぎざが切ったそばから生えてくる缶詰ににせの金色ひかる

ダウンロードの画面は靄(もや)を引き出してすみやかなことができない夜だ

博士課程(ドクター)は人じゃないねと秋味のハヤシライスを崩しつつ思う

人声もしたたる低音室のなかきかん気の蛋白を扱う

ブコウスキー読みつつ過す遠心のあいま淫靡というも楽しき

秋雨は芯まで雨だ むらさきの傘しばりつつ階段おりる

猫が土鍋に寝入る動画を楽しめば回線に満つ春の光は

道玄坂をくだれば見える吉野家の橙色があるところまで

冷え締まる無人の空を眺めおり月光・地球光さゆらぐあたり

手に握るかばんはひとつ日の暮のオオイヌノフグリむらさき光る

ほのぼのと雇用を生みしモールかな皿をさげゆく人を思えば

(田中濯 地球光 青磁社)

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塔短歌会の田中濯氏の第一歌集『地球光』の批評会に出かけた。
もともと東京で批評会が予定されていたが、地震の影響で急きょ京都で催されることになり、私も思いがけなく参加することになった。批評会に出るのは久しぶりなので、緊張。意見も求められて、しどろもどろになりながら、何とか少しだけ発言した。こういうことは、いつまでたっても慣れずに苦手である。

30人余りが参加した会で、お互いに全員の顔が見えて、オープンな感じの会だったが、塔短歌会、京大短歌会、神楽岡歌会のメンバーは、ずっと一緒に歌会などをしてきて、旧知の仲であり、そこに突然入っていったので、戸惑ってしまった。

田中濯氏は、京都大学農学部から、国立生理学研究所(愛知県岡崎市)、東京大学総合文化研究科を経て、現在は盛岡在住。短歌にも理系の研究生活の様子や独特の言葉が現れる。

二首目。ぎざぎざが生えてくるという感じがよくわかり、気味悪さもよく出ている。
六首目。数年前にブームだったブコウスキーには、私もちょっと嵌っていたので、嬉しくなった。
七首目。読者によって好きな歌が分かれる歌集であるが、この歌は共通して好まれたようだ。上句の把握が独特。むらさきの傘は、透明なビニールでうすい紫色の手軽な傘だろう。現代的な感覚がある。
十首目。地球も天体の一つなので、地球光を放っているという考えは、常人には持てない作者独特の感覚。
十二首目。地方(岩手)のショッピングモールだろう。地元の人を雇って運営されるモールの食堂の一場面だが、ものの見方が面白い。このモールも地震で壊れてしまったのだろうか・・・。地震の話は出なかった。
前半は、レトリカルな歌が多く、後半になると「塔」的な歌になっているという意見が出て、出席者は苦笑いしていた。「モールかな」と切るところにそんな匂いがあるのだろうか。

出席者には、大口玲子さんもおられたが、途中で退席された。ほか、真中朋久さん、中津昌子さん、魚村晋太郎さん、大辻隆弘さん、吉川宏志さん、棚木恒寿さん、永田淳さん、島田幸典さん、澤村斉美さん、大森静香さんなどなど、関西の有名歌人に混じって、緊張してしまった。

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2 コメント

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ありがとうございました (田中濯)
2011-03-28 18:34:06
お越しいただきありがとうございました。深く感謝しております。
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Unknown (かすみ)
2011-03-28 21:39:11
田中濯さま こんばんは。

当日は遠くからお姿を見ただけでお話できなくて残念でした。いろいろ勉強させてもらいました。これからもよろしうに。
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