気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

花虻  福井和子  

2012-10-06 17:24:16 | つれづれ
きそわれをひそかに脱けしくちなはか昏れゆく空にまどろめる虹

縄打たれ引かれゆく見ゆ秋雨のなかにひまはり首を垂れゐて

唇(くち)に火を移されるから夕焼けを見ないふりして自転車を漕ぐ

こぼれさうな秋のみづうみてのひらに載せゐるあなたからの絵はがき

ラ・フランスみごもりをらむふくらみにナイフ入れゆく死ぬまで女

すべり落つるその瞬間に白き皿は思ひ出だせり鳥なりしこと

ヘルメットとれば跳ね出づ金色の栗鼠のやうにもむすめの髪が

言へばそれで終はつてしまふ破れたるくちびるみたいな冬のカンナよ

消えのこる虹のむらさきわたしへの手紙が川をわたるころほひ

触れたのはほんの数本それなのにエノコログサの野は鳴りわたる

月の夜の窓辺に置けば漕ぎ出さむ紙の舟なり椎の実を載す

(福井和子 花虻 角川書店)

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ヤママユの福井和子の第一歌集『花虻』を読む。
福井さんは、1999年に角川短歌賞を受賞しており、その後12年を経ての待望の歌集出版である。歌の質が非常に高い。あとがきには383首を自選とあるが、いわゆる地の歌、ハズレの歌がないかと思われるほどだ。昨年、筑紫歌壇賞、現代短歌集会賞を受賞している。
たとえば、六首目。白い皿を落としたハッとする一瞬、それが言葉のちからで、鳥になって飛翔する。七首目もそう。長い髪を金髪に染めた娘さんがヘルメットを取った瞬間、髪が跳ねて栗鼠のように見えた。勢いのある比喩が卓抜。娘さんの活発な性格まで想像できる。シャンプーのCMを見るように景が目に浮かぶ。この歌集を、きっと繰り返して読むことになるだろう。


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4 コメント

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花虻 (teruo)
2012-10-07 01:06:52
こういう作品に出会えるとしあわせを感じます。

コメントのすくないブログがよいとはかぎらないが、よいブログにはことばがすくなくなります。
ありがとうございます。
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Unknown (かすみ)
2012-10-07 09:40:59
teruoさん

私が歌集を出してから、そろそろ三カ月。贈呈した方から、お礼として歌集を何冊かいただきました。『花虻』もそういう縁でいただいた歌集です。アマゾンでも購入できるはずです。『雲ケ畑まで』もアマゾンで売っております。
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雲ヶ畑まで (teruo)
2012-10-08 00:03:22
ついこのあいだと思っていましたが、もう三ヶ月になりますか。
六花書林から取りよせて読ませていただきます。
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Unknown (かすみ)
2012-10-08 01:07:41
teruoさん

ありがとうございます。よろしくお願いします。
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