気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

体温と雨 木下こう 

2014-06-04 00:13:07 | つれづれ
春泥をあなたが踏むとあなたから遠くの水があふれだします

たて笛に遠すぎる穴があつたでせう さういふ感じに何かがとほい

誰かいま白い手紙を裂いてゐる 夜のカップのみづ揺れだして

長靴のつめたい踵にはりつきて誰の草笛だつたのだらう

北むきの窓辺の古きさむき椅子ふかく掛けたるとききしみをり

てのひらにみづひびかせて水筒に透明な鳥とぢこめてゆく

森の木と森のてまへに並ぶ木はすこし思考がことなるやうだ

春といふ浅き器に草つみて農夫しづかに火をはなちをり

手と手には体温と雨 往来にさみしくひかるいくつかの傘

わたくしであることの疲労 コンビニに入るとき赤い傘をたたみぬ

(木下こう 体温と雨 砂子屋書房)

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未来短歌会、大辻選歌欄の木下こう第一歌集『体温と雨』を読む。

木下さんとは面識がない。略歴が記していないので、年齢も性別も職業もわからない。おぼろげに非常に繊細な感覚で歌をつくる人だということはわかる。

言葉が丁寧に選ばれ、細心の注意を払って詠まれている。綿密に絵を描き、そのあとをわざとぼかして淡く仕上げたパステル画といった印象だ。

一首目、三首目は近いところのものと遠いところのものの共振を詠んでいて、詩情を感じさせる。理屈が通らないところが魅力だ。
二首目では、たて笛という懐かしいアイテムを出す。誘いかけるような言い方。口語を旧かなで詠む歌のふしぎな感じが「あつたでせう」「さういふ感じ」に出ている。四首目は、草笛が意外な展開だ。草が貼りつくのなら、当たり前だが、「誰の草笛」として一気に詩になった。
六首目は、水筒に水を入れている場面。「透明な鳥」が面白い。水を注ぐときのてのひらの感覚、かすかな音が聞こえるようだ。
八首目は、上句の「春といふ浅き器」が斬新な比喩。
九首目。相聞だろう。手と手は作者と恋人だろうか。それとも道行く知らない人の手だろうか。下句から後者と読むのかもしれないし、恋人と手を重ねながら、往来を行く人を見ているのかもしれない。いずれにしろ、読者は雨の日の風景をそれぞれに引き出される。体温と雨という縁のない言葉をだして、情景を導いている。
十首目も傘の歌。この上句に強く惹かれた。作者は自意識が強く、生きにくい人だはないだろうか。余計なお世話だが、ここでポロッと本音が見えた気がした。

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2 コメント

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Unknown (teruo)
2014-06-04 23:14:51
すぐれた作品はよい読み手に出会うとさらに冴える、という印象を受けました。
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Unknown (かすみ)
2014-06-04 23:57:22
ありがとうございます。私などまだまだです。
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