気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

無常の武蔵野 宮田長洋 六花書林

2021-06-12 11:19:54 | つれづれ
武蔵野の木々に曾ては護られて遠き世のごと療養所あり

精神をいたく病みたる者もいて樹木は頻り縊死をいざなう

樹木希林はやなく田村正和はこのごろ見ぬがわれの同年

門出づる作家の書簡(ふみ)は消毒の洩れなき旨の追而書あり

文学をもて名声を得んとすは鬼の所業と知るひとは知る

短歌なんかやってる場合じゃないだろと蚊が唆すような気がする

「いいところへ行きなされよ」と棺のひとへその叔母言いて顔を覆いぬ

死に方を考えていると一人言うカフェに老いびと四人向きあい

取り澄まして「この世の花」を唄いおりし頃の島倉千代子こそ花

パシッと蚊を叩き潰しし女あり得意気に血を人に見せおり

(宮田長洋 無常の武蔵野 六花書林)

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短歌人同人の宮田長洋の第四歌集。十数年前に新年歌会でお見かけしたとき、若々しく純粋な佇まいの方だった。北條民雄、上林暁の小説に傾倒する歌がある。宮田さんご自身も闘病で入院生活を送っている。死への眼差し、感覚が独特で、そこを歌にしようと苦心されているのがわかる。短歌は報告ではないし、読者は心して読まなければならない。樹木希林、田村正和といった固有名詞の歌に身近さを思うけれど、その奥を見なければならない。

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