気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

襠裲 森田悦子 現代短歌社

2020-02-15 23:35:00 | つれづれ
蒔かれたる場所に根下ろす草に似て六十年を衣縫ひて来ぬ

襠裲を仕上げて息ぬきせし日より数日病みて父は逝きたり

早逝せし夫の蔵書にはさまれてはじけるやうな笑顔のわれが

道端の老婦人の売るコスモスの花束に小さく「百円」とあり

待つひとの居るごと購ひしバゲットを抱へて日ぐれの踏切の前

ちりめん山椒 肴にゆるゆる飲みをりぬ何とわたしにふさはしい夜

ひと言も人と語らず過ぐる日は記憶のなかの多くと語る

交尾終へし雄猫けだるく帰る道夾竹桃はあかあかと咲く

信号が青になるまで恋をしぬ弁天町交差点に美青年ゐて

わが縫ひし法衣にしづかに染みてゐむ雪の高野(かうや)の朝の声明

(森田悦子 襠裲 現代短歌社)

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