気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2010-02-22 23:24:46 | 朝日歌壇
終電の近きホームに自死ふせぐ蒼き照明冷たく射(さ)せり
(横浜市 大須賀理佳)

補聴器を外したままで曖昧な世界にいる人時にほほえむ
(三島市 渕野里子)

六千枚のトーストを焼くキッチンより餅焼くような匂い漂う
(アメリカ 郷隼人)

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一首目。最近、自殺を防ぐために、駅のホームや踏切の照明を青くしているという話を聞く。そのことを歌にしたある種の時事詠と読んだ。「蒼き照明冷たく」あたりの言葉に重なりがあるので、何かを減らしたらもっと良くなるのではないだろうか。
二首目。私の母はずいぶん前に亡くなっているが、耳が遠かったので補聴器を持っていた。しかし、「雑音で気分が悪くなる」とあまり使っていなかった。補聴器は便利ではあるが、聞きたくないことまで拾って聞いてしまうという「しんどさ」を伴う。この歌の登場人物は、耳が遠くても補聴器を外した曖昧な世界を楽しんでいるようで、やや救われる気分になる。若い人が乗り物の中でi-pod(ちょっと前ならウォークマン)で音楽を聴いているのも、他人のおしゃべりなどの雑音を聞きたくないという気持ちからではないだろうか。
三首目。六千枚のトーストという具体的な数字が出て、リアルな作品。作者が郷隼人氏なので、アメリカの大規模な刑務所だとわかるが、作者名がなかったら、「六千枚のトースト」で戸惑うかもしれない。


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