気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

チェーホフの台詞 野上卓 本阿弥書店

2021-09-19 11:56:26 | つれづれ
四十八歳の抵抗あれば七十歳の抵抗もあるふにゃふにゃだけど

真実は一つと言い切るコナン君そこのところはやはり子どもだ

思想にも賞味・消費の期限ありマルクス生誕二百年過ぐ

生きてゆくに煩わしきことさまざまで今日も会社に真っ直ぐにゆく

幾万の兵士のむくろつつみしか白地に赤く日の丸の旗

交番の手配写真に過激派の若き微笑はながくそのまま

 チェーホフ
生きてゆく生きていかねばチェーホフのセリフの染みる冬の夜となる

両親に殺されし子の作文をエンタメにしてテレビははしゃぐ

龍之介の息子三人演劇と音楽に生きひとり戦死す

野上さん写ってますよといただいたスナップ写真のなかの老人

(野上卓 チェーホフの台詞 本阿弥書店)

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短歌人の歌友、野上卓の第二歌集。野上さんは某飲料メーカーを退職後、短歌、俳句に勤しまれている。それ以前から戯曲を書く。作品は新聞歌壇に多く掲載され一読わかりやすく納得させられる。文学的才能、センス、体力に恵まれて羨ましいばかりだ。固有名詞の選択が絶妙で、同世代なら留飲を下げるだろう。ユーモアとペーソスを感じさせて自慢にはなっていない。歌集では連作を読めるのが嬉しい。第一歌集『レプリカの鯨』と共に上質のエンタテイメントと思う。