気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

童話の森 真狩浪子 六花書林

2021-09-11 12:12:55 | つれづれ
両の手をすくふ形でそつと来て子の差し出すは扇風機の風

帰宅して「ママ、さびしかった?」と訊く吾子に淋しいふりをしてみせてやる

レシートに「ハナ」と打たれし百円の名前のわからぬみづいろの花

「おかんの床屋」三十分で閉店ですまたのおこしは願はずにおく

卒業式に頼もしく見えし同じ子が幼く見えてり入学式は

一画目の程よきにじみ得るまでに和紙を散らせり戀、恋、孤悲と

しならせて、まるくつつんで からだとは曲線、そして曲線を恋ふ

あまりにもあなたの想ひのまつすぐで童話の森に逃げ込みて、待つ

液晶のパネルに触れる軽さにてわたしの方からピリオドを打つ

新しくやはらかき筆 思ふまま使へるまでに数日の過ぐ

(真狩浪子 童話の森 六花書林)

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短歌人同人の真狩浪子の第一歌集。25年の歌歴の3300首から350首に絞ったという。前半は「息子〇歳」のあとに数首がならぶ構成で、子への愛情が感じられるが、成長を冷静に見ている。後半は初期の作品や父母のこと、自らの病が題材になっている。7首目の独特の身体感覚に惹かれる。職業である書道教師としての、書へのこだわりも魅力的。歌集は人生の反映ではなく、どの歌を入れてどれを外すか。考えさせられる。