気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

九夏 小黒世茂 短歌研究社

2021-07-21 23:52:36 | つれづれ
草の露ふくみしづかな秋虫のからだのなかで水はめざめる

しづみゐし空母信濃に白骨をゆらすかそかな水流あらむ

お話を切りかへるにはなだらかないい曲り道 露虫鳴けり

ほらそこよと指さすときの手のなかに風船かづらほどの薄闇

老いびとと死者しかゐない浦みちにひじき干される竹笊のなか

言ひだせば止まらぬ歌評のやうに降る雨に籠りてDr.Rue読む

鉄橋をぎんの小粒がぐんぐんと電車になつて走りくるなり

道頓堀(とんぼり)のネオンの水にとびこみてグリコのをぢさんお手あげの夏

車輛から眉のいろいろ降りてくる流れにつかのま杭としてたつ

ジギタリスまつすぐ水を吸ふゆふべ読むひとだあれもゐない自分史

(小黒世茂 九夏 短歌研究社)

*******************************

玲瓏の小黒世茂の第六歌集。小黒さんとは関西の何かの短歌のイベントで知り合った。神楽岡歌会をはじめとして、親しくしていただいている。思えばコロナ禍で実際には二年以上お会いしていない。オンラインではときどき。小黒さんの歌は、物言いが柔らかい。「お話」「ほらそこよ」「お手あげ」といった言葉のやさしさ。芯はしっかりしていながら、ほのかにユーモアがある。土の匂い、空気の匂い、体臭も伝わる。描写が確かで学ぶべきところの多い歌集だ。