気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

近景 大森浄子 角川書店

2020-11-01 00:13:28 | つれづれ
別れぎは「あそんでくれてありがたう」茹で卵つるりん剝かれしやうな

右から読む「食糧販売所」橋詰に大正しづかに佇みてをり

水墨画の墨いろふとく下りきて崖なるか滝なるか近景に村

桃の枝かつぐ二匹の猿をどる庚申塔あり神楽坂下

屋根の上に和紙のやうなる昼の月 春のふらここ一人で漕げば

ヴァラナシに行きしか問ひし真剣の山寺修象どこへいつたか

みづからをふかく恕すと思ふまで金木犀の花は降りやまず

紙燃えて紙をどり出す一瞬を印字くきやかに浮き出づる見ゆ

子供部屋の机の抽斗 セロファンを被りしままの消しゴムがあり

辛子バター厚くぬりたるハムサンド木椅子に食めば木洩れ日のふる

(大森浄子 近景 角川書店)

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短歌人の先輩、大森浄子さんの第三歌集。穏やかで清潔。いくつかの病気を乗り越えながら詠いつづける。周りに人がいるのにうるささはない。抑制する気持ちがあるからだろう。紙燃えて紙をどり出す一瞬…の巧さに感心した。