気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

海の額と夜の頬  山下泉  つづき 

2012-12-10 22:40:13 | つれづれ
赤屋根の駅舎を出でて選ぶ道、左の道は春に入りゆく

亡き人の寝台借りて睡りたり青光りする蛹(さなぎ)のように

貝寄せの風にととのう砂浜の海の額をつつしみ踏めり

欅あかり西の枝からふくらんで子の出で行きし窓を包みぬ

古い付箋の位置をずらしてまた戻す記憶のうらの蛇を見しごと

ちぎりパン撒きながらゆく朝の水とおい島への道順として

きょうは薔薇あすは糸杉と歌う声、日仏学館百年のちも

スイッチを切ればしっとりうなずいて空間ひとつ闇にしりぞく

句読点は呼吸する星たましいのソクラテスからいただいたもの

やわらかい雨の透き間にひそやかに黒揚羽くる繻子の靴はいて

(山下泉 海の額と夜の頬 砂子屋書房)

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装丁は、フランス装で、ハトロン紙のカバーがかかり瀟洒な感じがする。付箋がいっぱいついた。こういう歌集を読んでいると、じんわりと静かな悦びを感じる。写真は日仏学館。