気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2008-12-08 22:52:22 | 朝日歌壇
(柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ
(ホームレス 公田耕一)

窓のない職場で一日暮れてゆく消化試合のような人生
(藤沢市 辻千穂)

焼きたてのフランスパンを胸に抱きゆっくり帰る黄落の径(みち)
(宇治市 山本明子)

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一首目。まず住所がホームレスとなっていることに驚いた。名前もペンネームなのかもしれない。パーレンに囲まれた(柔らかい時計)は、皿のように見える。作者が生活している時間も、縛られることなく柔らかいのだろう。記号の使い方に、なかなかのテクニックを感じる。作者の名前や住所を含めて、何割が本当だろうと考えるのは下世話な読み方だろうか。
二首目。窓のない職場から、全体に閉塞感を感じさせる歌。消化試合のような人生とは、なんともさびしい。しかし作者はその合間に短歌を作っているのだ。仕事が人生すべてでもないし、そのあとが楽しみだということを実はわかっていて、こういう歌を作っているのではないか。そうであって欲しい。
三首目。こちらはささやかながら幸せそうな歌。数年前『黄落』をいう介護をテーマにした小説がベストセラーになった。黄落は、単に木の葉や果実が黄ばんで落ちるだけでなく、人生の後半という意味も想像させる。美しく紅葉または黄葉して散っていく木の葉に自らを重ねてしまうのは、私だけではなさそうだ。

あかあかとライトアップに照らされて紅葉散るまで咲かねばならず
(近藤かすみ)

コントラバス 細溝洋子 つづき

2008-12-08 02:12:02 | つれづれ
誤りてキーに触れしや唐突に人は昔を語り始めぬ

春の夜の詞華集(アンソロジー)のそここに白藤のような旧かな咲けり

乗り換えの小さな駅に降りたてる回想と空想のよく似た姉妹

質問と答えがふいに入れ替わる きつねが角を曲がって行った

鳥の群れいっせいに向きを変えるとき裏返さるる一枚の空

乾かせば何もなかったような傘きれいに畳み仕舞い終えたり

(細溝洋子 コントラバス)

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良い歌がたくさんあるので、もう少し引用する。
アンソロジーの旧かなを白藤と喩えたり、回想と空想の姉妹を登場させたり、発想がゆたか。
きつねの登場する歌には感心した。何か質問されて答えにつまったとき、「それで?」と質問に質問を返してごまかすことがある。これはきつねの仕業だったんだ。質問返しをしたあと、きつねは澄まして角を曲がったのである。
鳥の群れが向きを変えるときも、スカーフが裏返るように空も裏返っている感じがする。この人の歌をもっと読みたいと思う。