気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

雨裂  真中朋久 

2008-09-25 15:32:10 | つれづれ
朝より思ひ出せぬことひとつあり微雨すぎてのち匂ひたつ土

あぶら照り照りかへし凪ぐ湖のうへ湖底の水温書きとめてゐつ

雨あがりの果実のごとく試料容器(ポリビン)を籠に集めて帰り来にけり

君が火を打てばいちめん火の海となるのであらう枯野だ俺は

乱れつつ愛宕詣にゆく雲のやがて雨滴をこぼしはじめる

最終の<のぞみ>か遠き野をゆくは時折あをき火花ちらして

逢ひにくるやうに毎月ここに来て野末の測器の撥条を巻く

湿度計の奥に張られる亜麻色の女人の髪を筆もて洗ふ

音楽のひらきゆきたる闇のあと金色の月が来て照らしをり

(真中朋久 雨裂 雁書館)

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真中朋久の第一歌集『雨裂』は平成14年現代歌人協会賞を受賞している。気象予報士という仕事は、憧れの職業ながら細かいことはわからず、この歌集を読んでこんなこともしているのかと気づかされる。音楽にも趣味があり、その方面の歌もいくつかある。
私がこころ惹かれるのは「君が火を…」のような相聞歌。結句の「枯野だ俺は」というぶっきらぼうな言い方の中に、強くて野性的な恋の思いが語られている。
「最終の<のぞみ>…」の歌は、のぞみという言葉が新幹線の愛称でありながら、のぞみ=希望という本来の意味を連れて来て、巧みな作りになっている。

この歌集の版元の雁書館が最近廃業したらしいので、今後図書館で借りるといった方法でしか、読むことが出来ないだろう。私も京都府立図書館から借りて読んで、返してしまった。画像は愛宕山の階段。JH3NXG 清水博一さんのホームページからお借りしました。