気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2008-09-22 19:43:34 | 朝日歌壇
砂浜に拾う貝殻どこかしら傷つきており過去語るがに
(舞鶴市 吉富憲治)

生きにくき長寿の国の逆説を生きて地獄に秋風を聴く
(青梅市 津田洋行)

偶然の重なりだったと振り返るこの妻この職あすは定年
(堺市 坂倉秀樹)

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一首目。ロマンティックな歌に見えるが、傷ついた貝殻は人間の喩。作者は以前アメリカ在住の方ではなかったか。人生経験が歌に生かされている。
二首目。長生きをしても決して幸福とは言えない現実を見据えて、じゃあこの世=地獄で強く生きてやろうという作者の気概が感じられた。頼もしい歌。
三首目。朝日歌壇に出たということは、奥さまもこの歌を読んでおられるのだろう。本当は運命の出会いだったのに、照れて偶然の重なりと表現されたのだろうか。結句の「あすは定年」が歌に重みを出している。

朝日歌壇の歌を読んでいて、とにかくわかりやすいと思う。結社誌や短歌総合誌、歌集の歌には、わかりにくいものが多い。それは、歌を学ぶものが「言いたいことを抑えて遠まわしに言う」ことで、歌に深みを持たせようとして、失敗したからではないだろうか。一読わかって、しかも深い歌。目指すところだが、なかなかむつかしい。