気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

牧歌 石川不二子 つづき

2008-07-24 01:19:18 | つれづれ
炊事場の溝にあつまる黄蝶らを飛(た)たしめて牛に水運ぶなり

見のかぎり花野が牧野にならむ日ぞやがてはわれも農の子の母

牧草に種子まじりゐし矢車の花咲きいでて六月となる

紅梅が見たしと思ふ 唐突にせつぱつまりし如くに見たし

月見草の花ひとつづつ手にもちて子らは畑の道かへりゆく

荒れあれて雪積む夜もをさな児をかき抱きわがけものの眠り

裏箔のごとき光をふふむ空罌粟たをたをとみな濡れてゐる

(石川不二子 牧歌)

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石川不二子『牧歌』のつづき。的確な写実の歌で、内容は岡山県の開拓村での農業と育児の労働の歌である。
決してきれい事ではなく、激しい労働に疲れはてている様子がわかる。歌を作ることは、息抜きなのだ。
四首目にあげた紅梅をせっぱつまって見たい歌など、読んでいて辛くなる。
私の一番好きな歌は、歌集の最後の一首でもある裏箔の歌。
夕暮れなのだろうか、金箔の裏側(よく思いついたと感心する)のような空の下、ケシの花がしなやかに揺れ、濡れている。繊細で美しい風景だ。