気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

游子 本多稜 

2008-07-10 00:33:43 | つれづれ
大陸の風に胞子を飛ばさむと厚き株式発行目論見書(プロスペクタス)を積む

子の髪が最初に乾く風呂上がり五月の夜の闇をはじきて

鉄板に押し付けられて生きながら赤と白とに分かれゆく海老

アマゾンの首狩族の干し首はくろぐろと拳大のおほきさ

北京(ベイジン)のJETROニセモノ展示館ホンダもどきの出来栄えよろし

ふた月もたたぬ間に「お」が「おと」に「おとしやん」となり辛夷が咲きぬ

底値だらうかと株を買ふ 落ちてくるナイフを素手で受け止めるごと

父を生き夫を生き管理職を生き僅かにわれを生き時間は 瀧

絶巓に立ちてわが掌にアフリカのみどりを映す空を持ち上ぐ

(本多稜 游子 六花書林)

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第13回寺山修司短歌賞に選ばれた本多稜の『游子』を読む。
証券関係のお仕事で世界中に出張し、山にも登るという超多忙の生活の中、短歌に取り組まれている。職場詠、旅行詠、家族詠があり、多彩で読んでいて飽きない歌集だった。
短歌を作る技をしっかり持っていると、出来事を日記に書くように、短歌が作られるという印象を受ける。構えなくても日常そのものに、短歌の材料は一杯ある。特に説明するまでもなく、一読してわかる歌ばかりなのも嬉しい。
6首目の「おとしやん」の歌も、お子さんの成長をよく観察して、捕らえていると思う。結句の「辛夷が咲きぬ」も美しい。
8首目。「時間は 瀧」の一字開けが聞いている。
9首目。アフリカの山に登山した歌だろう。スケールが大きい。自然も彼の人生も。

たそがれの水面を跨ぐ御影橋暮れてかたへの灯は枇杷のいろ
(近藤かすみ)