定型は人をきびしくするものか しばらく思う 甘えさすもの
卓上に地震(ない)のしずかによぎりしが途方に暮れて眼鏡ありたり
掛け違うつぎのボタンを探す手のしばらく遊びいたる暗がり
「かなかな かな」死はなつかしき声で鳴く 近づきてまた遠ざかりゆく
五時すぎの道に現われ立ち止まる犬をし見ればわれの顔して
飴ン棒口にくわえて幼かるわが過ぎし日のまた還り来よ
(岡部桂一郎 竹叢 青磁社)
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一首目。どういう意味だろう。結論としては「定型は人を甘えさすもの」ということになる。短歌のかたちになっていれば、短歌を作った気になるが、それでは優れた作品にはならない。形に収めることも大事だが、それに甘えず、一首が詩として立ち上がるように作りなさいということだろうか。
四首目。岡部桂一郎ほどの年齢になると、死の泣き声が聞こえるのだろうか。いまのところ近づいても遠ざかってゆくらしい。なんとなくこわい歌。
五首目。犬の顔が自分の顔をしているというのは、奇妙な感覚。返す言葉に困るような歌。
六首目。子供のころの回顧にひたりたい願いがわかる。絶対に戻れないのに、戻りたいし戻ることが出来るような感じがあるのだ。
死ぬときは枕元まで母が来て卵ごはんをひとくちくれる
(近藤かすみ)
卓上に地震(ない)のしずかによぎりしが途方に暮れて眼鏡ありたり
掛け違うつぎのボタンを探す手のしばらく遊びいたる暗がり
「かなかな かな」死はなつかしき声で鳴く 近づきてまた遠ざかりゆく
五時すぎの道に現われ立ち止まる犬をし見ればわれの顔して
飴ン棒口にくわえて幼かるわが過ぎし日のまた還り来よ
(岡部桂一郎 竹叢 青磁社)
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一首目。どういう意味だろう。結論としては「定型は人を甘えさすもの」ということになる。短歌のかたちになっていれば、短歌を作った気になるが、それでは優れた作品にはならない。形に収めることも大事だが、それに甘えず、一首が詩として立ち上がるように作りなさいということだろうか。
四首目。岡部桂一郎ほどの年齢になると、死の泣き声が聞こえるのだろうか。いまのところ近づいても遠ざかってゆくらしい。なんとなくこわい歌。
五首目。犬の顔が自分の顔をしているというのは、奇妙な感覚。返す言葉に困るような歌。
六首目。子供のころの回顧にひたりたい願いがわかる。絶対に戻れないのに、戻りたいし戻ることが出来るような感じがあるのだ。
死ぬときは枕元まで母が来て卵ごはんをひとくちくれる
(近藤かすみ)