気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

木馬

2007-01-10 23:00:34 | つれづれ
陽光に歓びのうたはじけつつアフリカアフリカちちふさゆるる

ボーイソプラノうたふ菩提樹 ざわざわと青葉梟(あをばづく)鳴く森の明るさ

幸福のしじまのごとき木馬の背にまたがり子らはとはに走れり

十本の色えんぴつの少女たちアイリッシュ・ダンス終へて一列

テラスにはフィッシャーマンズ・セーターの似合ふ老人新聞ひらく

(紺野裕子 マドリガーレ 砂子屋書房)

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陽光のうたは、白夜ー空想の旅へーという一連から。
四首目、五首目は、アイルランド空想紀行という一連から。
こういう短歌の作り方もあるのだと思う。

このブログで、読んでいる歌集からわたしの気に入った歌を取り上げているが、そこからその歌集に興味をもって、一冊を手に取って読んでもらえたら、すてきだといつも思っている。


マドリガーレ 紺野裕子

2007-01-10 00:50:18 | つれづれ
ヘロドトスの旅せしといふ王の道おもひつつ一人ひるのパン食ぶ

拝火教のたかき炎は照らしけむ夜の砂漠のかぜのゆくへを

ざんぶりと青菜洗へばあすゆかむ一枚の空たちあがりたり

精神科の医者の背後の窓にゐるカラスおまへはおほく知る者

エーゲ海の潮のにほひに洗はれし一千のまどの一つをひらく

(紺野裕子 マドリガーレ 砂子屋書房)

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紺野裕子さんは短歌人会の先輩。わたしがはじめて甲府の全国集会に出たとき、ホテルの部屋が同じでそれ以来親しくしていただいている。
歌集の題の『マドリガーレ』は、あとがきによると、十四世紀イタリアにおこった声楽音楽のことらしい。紺野さんが声楽をしていらっしゃるとは、いままで知らなかった。この歌集には、海外旅行の歌がとても多い。しかも旅に出るまえから、思いを馳せて歌にしている。空想の旅へ・・・という章もある。現実はキッチンで青菜を洗っていても、生活臭にまみれずいつも美しくいられるのは、この想像力のおかげだろう。何しろ憧れるような綺麗な方である。