気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

短歌人3月号 3月の扉

2017-03-02 11:01:06 | 短歌人同人のうた
呼ばるるを待つ人のなかをちこちに二年後五年後十年後のわれ

視線合ふことを畏れて本を読むそれに飽きればまた壁を見る

(大橋弘志)

決められた時間の中で動きたり待合室は時のきれはし

次々と見知らぬ人が後に来て押し出されゆく待合室を

(齋藤和美)

半年ぶりの歯科健診にきてみれば待合室にBach流れる

エレベーター降りるとそこは待合室さながら静かな喫茶店のよう

(野中祥子)

週刊誌手もち無沙汰の手にとりて待合室に読むスキャンダル

わが友が舌癌の末に入りにける終(つひ)の待合室のホスピス

(秋田興一郎)

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短歌人3月号、3月の扉。題詠*待合室を詠む

短歌人2月号 同人のうた その3

2017-02-22 18:22:38 | 短歌人同人のうた
沸騰の湯に没りてゆく美(うま)し世の法蓮草はみどりなりけり
(柘植周子)

初雪の降りたる午後に『いとしきもの』田村よしてる遺歌集届く
(室井忠雄)

冬となる濃き青空が映りおり机の上の雲形定規
(守谷茂泰)

裏木戸より椿へわたるくちなはのつやつやとして神無月あり
(曽根篤子)

いつせいに空へ飛びたつ野の鳩の風切羽よ冬ふかむ日に
(金沢早苗)

ひと夏を独り占めせるポスターに水着の美波里の厚きくちびる
(池田裕美子)

ベルトより束なす鍵を垂らしたるマッチョをりたりサーカス小屋に
(三井ゆき)

両の手に大根さげて来し人に大根もらひぬ視線が合ひて
(中地俊夫)

ねむりより覚めたるわれはエヂプトのスフィンクスのこと少し思へり
(小池光)

この冬の一番の寒さという夜なり一箇を届けにアマゾン・ドット・コム
(川田由布子)

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短歌人2月号、同人1欄より。

格別に大きな月の出るといふ夜を待ちつつタオルたたみぬ
(近藤かすみ)

短歌人2月号 同人のうた その2

2017-02-08 12:40:38 | 短歌人同人のうた
宅配の手荷物かかへ門灯へ小走りにゆく男半袖
(紺野裕子)

冬の匂い香ばしく顔にまつわりて息すればつくづくと冬なり
(内山晶太)

まろやかなお地蔵さんのあたま撫ぜ純なるなみだ湧くときのあり
(斎藤典子)

いひたらざりしかと悔ゆれどもいひすぎて臍(ほぞ)かむよりはよからむ 寝ねむ
(蒔田さくら子)

飴玉を嚙まずにいられないと言う破片に満ちているだろう口
(谷村はるか)

「短歌人」に冨樫由美子の名がありてけふの日暮のビール楽しむ
(高田流子)

ネットなんか無視すればいいと言いくるる口調迷いなき柏木進二
(宮田長洋)

わが街に唯一のシネマ館ポポロ座のとなりの席にあなたはゐない
(山下冨士穂)

甲冑に身をよろひたる地蔵たち暗がりに佇つひたすらなりき
(長谷川莞爾)

天金の鈍く光れる円本の正岡子規集おりおりに読む
(おのでらゆきお)

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短歌人2月号、同人1欄より。


短歌人2月号 同人のうた

2017-02-03 15:59:14 | 短歌人同人のうた
ラ・フランス一気に熟し香りたる今夜もしづか消灯ののち
(阿部久美)

三河屋のチラシの裏にわが書きし「かたたたきけん」母の文箱に
(有沢螢)

小粒なる渋柿あまた実らせて大笑いする柿の木があり
(関谷啓子)

黄の色にほのぼの咲けり石蕗(つわ)のはな誰も知らざる木の下陰に
(小林登美子)

年取つたねえと鏡の女にいふときに鏡の女はすこし怒りぬ
(西村美佐子)

トランプ氏を勝たせしちから解せぬまま読みをり『今昔物語集』
(洞口千恵)

現代短歌の主要テーマは孤独だと聴きて戻りぬひとりの部屋に
(八木明子)

淡からぬ濃からぬ鴇のかざきりのあけはふさはし老いづくわれに
(佐々木通代)

蓮根のむなしき穴を嘆きつつ目の手術日の前日となる
(青輝翼)

拭かぬ硝子戸がいつまでも綺麗であるやうに 一日の終りにわが祈ること
(酒井佑子)

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短歌人2月号、同人1欄より。


2月の扉

2017-01-30 19:06:36 | 短歌人同人のうた
夕焼けが闇と攪拌されてゆくさま屋上にひとりみている

上弦の月をぼんやり映しつつ青い目薬落しておりぬ

(鶴田伊津)

高い所を怖がるわれをむかしから許して回る大観覧車

四十八年重ねし日々の頂上に仲よくをれどあやしくなりぬ

(竹内光江)

地図のかたちと同じ半島見ゆるなりなにもそこまでと思い見つるも

スチュワーデスこの音韻の格別にわれら昭和の男は恋す

(松村威)

幾つもの頂に立ちわたくしはいったい何を見たのだろうか

わが世界せまくなりしと裏山に登りて棲みいる町を見ている

(谷口龍人)

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短歌人2月号。題詠*高い所からを詠む

短歌人1月号 同人のうた その3

2017-01-11 11:40:26 | 短歌人同人のうた
「じさつした嫁とそつくりのべつぴんさん」京都駅前広場でいはれる
(西橋美保)

人の死はすべて孤独死今日も船消ゆるバミューダトライアングル
(八木博信)

三万日超ゆるあゆみか脹脛揉みほぐしをり冬至の柚子湯
(小川潤治)

晩年に入りしよろしさ足一本ふやして初冬の街に出でゆく
(古川アヤ子)

灯油の匂ひふいに過ぎりぬ夕べの道あなしづやかに冬が来てゐる
(小島熱子)

箱根蔵王湯布院別府 袋より取り出だしては湯の花さかす
(榊原敦子)

ねむるのが下手な母の血だんだんとわれに濃くなる木犀にほふ
(佐々木通代)

隣人は鈴好むらし鍵束の鈴は鳴りつつドアを開けいる
(村山千栄子)

いづこからいづこへ渡る鳥ならむ小さき形が群れなし過ぐる
(三井ゆき)

スーパーに買いてつましき秋刀魚二尾家近づけば銀とがりゆく
(川田由布子)

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短歌人1月号。同人1欄より。
西橋さんの一連、面白く読んだ。同人は七首掲載なので、何首かは載らなかったのだろうか。この人の歌にある毒に惹かれる。八木さんも毒のある歌を詠む人で、注目している。

右手より左手冷ゆる不可思議に文(ふみ)を書かむと便箋ひらく
(近藤かすみ)

短歌人1月号 同人のうた その2

2017-01-08 00:32:54 | 短歌人同人のうた
文法の間違ひ指摘するときに薄皮ほどの恥ぢらひのあり
(宇田川寛之)

上州の熟るる麦畑を旅せしも人に告げねばおぼろになりゆく
(斎藤典子)

いろいろのことはあるかとおもへども山寺修象歌なきは淋し
(小池光)

「おことば」といふ不思議なる日本語に耳慣れてゆく日本の秋
(高田流子)

ひと夏を励みくれたる無花果の枝剪り払ふ来る年のため
(武下奈々子)

真闇なす冬の杜よりひとつづつ言葉取り出す人に逢ふため
(大谷雅彦)

秋風の気配に触れてベビーカー押しゆく先に海が見えたり
(倉益敬)

副作用抑うる薬に副作用ありてまた来しこのファーマシー
(宮田長洋)

アールグレイの缶をあければいつの秋 子らとあつめし銀杏の出づ
(和田沙都子)

父のしるす候文などまねたるは前髪いまだあげ初めし頃
(宮本田鶴子)

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短歌人1月号、同人1欄より。

1月号に載るのは、11月12日〆切の歌。季節がずれるのは仕方がない。3月号の詠草を原稿用紙に清書して、投函した。また、来月に向けて作りはじめる。


短歌人1月号 同人のうた

2017-01-04 11:54:53 | 短歌人同人のうた
モノレールは意外と揺れて空想をまた取り落とす秋晴れの日に
(猪幸絵)

蛾のねむり知らざりし四十年、ながき絵巻の空のそこここに飛ぶ
(内山晶太)

身支度の鏡のなかに降る雪は着地をなさずのらりくらりと
(阿部久美)

水流が馬の筋肉に見えるとき力が力を征す気配す
(生沼義朗)

ごきげんな秋のわたしをタバコとかくちぶえな気分に巻き込むな
(斉藤斎藤)

顔のなき茹で玉子のから剝きゆけば顔のなきゆで玉子あらはる
(真木勉)

コスモスの庭にたたずみ見わたせば風の抜け道あの世への道
(杉山春代)

朝のゆかより拾ふごきぶりの肢(あし)二本ほか何もなしこの死をよみす
(酒井佑子)

一つずつ終わらせてゆく些事・大事 冬空晴れる東京の街に
(西勝洋一)

渡り来て冬のいそぎに鳴きかはす水鳥のこゑは枯葦のなか
(渡英子)

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短歌人1月号、同人1欄より。

短歌人1月号 1月の扉

2016-12-29 01:05:20 | 短歌人同人のうた
ドイツ語の詩集を閉じてやわらかな頬袋もつリスになりたし

はつふゆの歩道橋から夕雲の内ポケットのふくらみが見ゆ

(有朋さやか)

叩くたびビスケットの増えるポケットの歌をうたえば哀しきものを

ポケットのなき服不安と思いつつ出でて帰りて何事もなし

(古本史子)

もんぺ姿の母のポケットは何処やらと探りさぐりにし我が幼少時

内ポケットに饅頭隠して昼寝せり ほのぼの熱り饅頭もねむらむ

(和嶋忠治)

ポケットに蟬のなきがらつめこんで子のポケットは生死のにほひ

はたきたるみぎてを逸れてたはやすくポケットの渕を発ちし冬の蚊

(柘植周子)

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短歌人1月号。1月の扉。今月のお題はポケット。

短歌人6月号 同人のうた

2016-06-13 12:18:47 | 短歌人同人のうた
目を病みてあふぐ並木のさくらばな下之橋御門の堤に浄し
(青輝翼)

ひとひらの貝の形の皿の上「花遊山」てふ菓子置かれをり
(有沢螢)

街中の染井吉野は咲き満ちて窒息しそうなわれが立ちおり
(関谷啓子)

月天心水仙のはなほの白く春のかをりのなかを歩めり
(大森浄子)

きのふけふ中国山地を巡り来し列車に乗りて、乗りて何せむ
(八木明子)

静けさと時間が少し要るのです花の波動を受け取るまでに
(武藤ゆかり)

みなみかぜは福島よりくる風なればこころして受く桜とともに
(洞口千恵)

一枚の紙を重ねてゆくように生きんや今日の靴も選びて
(岩下静香)

滝のごとさくらは堀に傾れつつ白鷺の城をいろどりてをり
(西橋美保)

わが庭に孫が植ゑたるチューリップひとつ花咲きみつつの蕾
(小池光)

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短歌人6月号。同人1欄より。