2℃が限界?! 地球温暖化の最新情報

環境NGOのCASAが、「2℃」をキーワードに、地球温暖化に関する最新情報や役立つ情報を、随時アップしていきます。

州政府がイニシアチブをとるアメリカの温暖化政策-カリフォルニア州の温暖化対策-(2)

2006-06-08 00:53:15 | 温室効果ガス
前回は、アメリカの自治体レベルの温暖化対策動向を見ながら、カリフォルニア州(以下、加州と略します)の概要と温暖化対策戦略について触れました。今回は、加州が導入している温暖化対策について、1)運輸、2)エネルギー効率化、3)再生可能エネルギーの3つの領域から具体的に見ていきたいと思います。

1)運輸部門は、加州の温室効果ガス排出量の4割を占め、温暖化対策の非常に大切な政策領域です。加州は、具体的に、自動車のエネルギー消費効率の向上や代替輸送燃料の利用、他の輸送機関への乗換えを促進することによって、ガソリン消費量を削減しようとしています。中でも重要な政策は、2004年9月に策定された自動車温室効果ガス基準(Vehicle GHG standards)です。
これは、2009年以降の新規モデル車に対して段階的な温室効果ガス排出量削減を課すもので、2016年までに2002年モデル車に対して30%削減する基準を設けています。加州はこの新たな基準で、州全体の自動車・軽トラックからの温室効果ガス排出量を2020年までに、予測排出量に比べて18%(一日当たり87,700トン削減)、2030年までに27%削減(一日当たり155,200トン削減)できると試算しています。
この政策自体は画期的なのですが、この部門での総排出量が減少するのは2010年ごろからと予測されています。そのため加州は、州のCO2排出量削減目標を達成するために、さらなる追加的な政策を検討している様です。

2)自動車以外のエネルギー効率の向上もまた非常に重要な政策領域であり、これまでも積極的に展開してきました。そのおかげで、過去30年アメリカ全体の一人当たりエネルギー消費量が50%も増加したにもかかわらず、加州はほとんど横ばいのままでした。具体的には、新設の建築物や電気製品へのエネルギー効率基準を設定したり、電力会社が電気機器のエネルギー効率向上へ投資したりしてきました。
加州は、これまでの成果に満足することなく、さらなるエネルギー効率化を推し進めようとしています。2005年、加州は、電力・ガス会社による先進的な取り組みを更に強化し、アメリカ史上最も野心的な“省エネ”政策を打ち出しました。それは、州の規制の下(注1)、大規模電力・ガス会社が、向こう3年間(2006年から2008年)にわたって年間約8億ドル(昨年まで5億ドル)をエネルギー効率化プログラムに投資することです(注2)。
結果として、州全体で、消費者が省エネ機器に支出する費用を含めると、通算約27億ドルという膨大な投資をすることになります。しかし同時に、その政策を実施することで膨大な利益が得られる、と試算されています。環境対策をしながら利益を上げるとは、いったいどういうことでしょうか。
この政策のもとで、電力会社は、2008年までに現状推移シナリオに比べて、約7,370GWhの電力消費量と約150万kWのピーク電力(約3つの大型発電所に相当)を削減し、ガス会社は約1,300PJのガス消費量を削減する計画です。この電力・ガス消費削減で、電力・ガス会社は、2008年までに現状推移シナリオと比べて660万トンのCO2を削減(127万台の車の排気量と同等)できると試算しています。つまり、この政策を導入することで、投資額27億ドルを上回る約54億ドルの利益を得ることができると試算されているのです。ちなみに、この利益には、省エネにより不必要となる発電所、送電・配電施設への投資、また削減される燃料費、送電、配電にかかる電力ロス、CO2を含む排気物質などが含まれています(1トンのCO2削減は約8ドルとして利益に換算されています)。
このように思い切った“エネルギー効率化”政策を施行するのは、エネルギー効率化プログラムが最もクリーンな電力・ガス供給代替政策で、どの電力・ガス供給資源よりもコストパフォーマンスが高いという認識が州に浸透しているからなのです。

3)エネルギー供給部門の脱化石燃料化も重要な政策領域となっています。これまでも加州は、再生可能エネルギー普及を推進してきましたが、近年は、野心的な目標を掲げ、さらなる再生可能エネルギー普及に意欲的です。加州は、2003年から、前述のRPS制度を導入し、2017年までに供給電力の20%を再生可能エネルギー(大規模水力を除く)にすることを目指しています。さらに最近では、この目標値をさらに前倒しし、再生可能エネルギーの割合を2010年までに供給電力の20%、2020年までに33%にするよう検討がされています(ちなみに、日本の2010年までの目標値は、1.35%にすぎません!)。

以上の政策を含め、おおよそ11項目の政策でカリフォルニアは知事の温室効果ガス削減目標を達成しようと努力しています。しかし、この11項目でも達成が困難なので、それらを更に強化する幾つかの政策を考案中です。

これら多くの政策は、アメリカ内では先進的なのですが、CO2削減の取り組みを包括的に始めたのはごく最近のことで、現状では京都議定書の目標レベルに届くにはまだまだ時間がかかるようです。ただ、このような政策の幾つかは(RPSや省エネ政策)はアメリカのみならず、他の先進諸国にも参考になるようなものであるといえます。

一方、アメリカ内では先進的な州の取り組みは他の州や、連邦政府の活動に影響を与えているようです。実際、アメリカの上院・下院では州の活動に影響されて、これまで幾つかの温暖化ガス削減政策を打ち立ててきました。また、アメリカ全州に対する全国版RPS制度の法案も議会で議論されてきました。残念ながらそれらの政策はまだ通過していませんが、2005年に可決された連邦エネルギー法は少し前進した政策を打ち立てました。一つの好例は、2012年までに75億ガロン(約2840万kl)の再生可能なエタノール(現在のガソリン消費量の約5.3%)を生産することを義務化したことです。
とはいえ、連邦政府の政策は、全体的には先進的な州の政策に比べると、まだまだ遅れています。こうしたことを踏まえれば、州をはじめとした自治体は、自分の地域内の政策を発展させることに加えて、連邦政府への政策的影響を高めていくための戦略も求められるのではないでしょうか。


(注1)加州公益事業委員会は、電力・ガス会社に(1)委員会が定めた電力・ガスの消費削減目標と、ピーク時の需要削減目標を達成することや、(2)プログラム全体の費用対便益を、委員会が定める基準以上にすることなどを義務化しました。また、米国の公益事業規制ではよくあることですが、省エネプログラムの内容や個々のプログラムによる電力削減などの成果に大きな影響を与える省エネ機器のコストや性能(機器の寿命など)の設定などは、環境保護団体、消費者団体、産業団体などを含むステークホルダー同士の話し合いにより決定され、委員会によって承認されました。
(注2)省エネプログラムの評価や、電力削減量の測定や実証にかかる費用を含む。

州政府がイニシアチブをとるアメリカの温暖化政策-カリフォルニア州の温暖化対策-(1)

2006-05-31 23:55:50 | 温室効果ガス
アメリカでは、自治体(特に州政府)が温暖化対策の推進に強力なイニシアチブを発揮しつつあります。 そこで、今回と次回の2回にわたり、温暖化対策に熱心になり始めたカリフォルニア州の温暖化対策の事例についてご紹介しましょう。

 京都議定書に参加しないアメリカにおいては、自治体が進める温暖化対策には、二つの重要な意味があるといえます。それは、第一に、地域の温暖化対策を進めることによって持続可能な地域社会づくりを先取りできることです。第二に、他の地域への刺激にもなり、さらに連邦政府にも少なからぬ影響を与えることができるということです。

 では、アメリカの自治体レベルでの温暖化対策はどの程度進んでいるのでしょうか。州レベルにおいては、特に電力部門において、温暖化防止対策に関連する政策が積極的に進められているようです。例えば、オレゴン州では、1997年から新しく建てられる発電所に対して、CO2排出量の排出基準を定めています。また、マサチューセッツ州では、2001年の州法で、最も古く環境負荷の大きい6つの発電所に、2006年までにCO2排出量を97年から99年の平均排出量に対して10%削減するよう義務付けています。同様の取り組みは、ニューハンプシャー州やワシントン州でも見られます。また、再生可能エネルギー(注1)普及を電力会社に義務付ける州政府が急速に増えています。2006年4月時点では、22州とワシントン特別区が、電力供給量の一定割合を再生可能エネルギー で賄うよう電力会社に義務付ける法律・指令を制定しています (注2) 。

このようにアメリカでも多くの自治体が温暖化対策を進めるようになってきました。その中でも包括的かつ積極的に温暖化対策を進めようとしている自治体の一つにカリフォルニア州があります。

 カリフォルニア州(以下、加州と略します)は、人口3,387万人(2000年)、面積40万平方kmでアメリカでも有数の規模を持つ州です(日本は約38万平方km)。エネルギー消費量も多く、国内のエネルギー消費の8%、小売電力販売量の6%を占めています(注3) 。また、加州の温室効果ガス排出量は、4.9億CO2トン(2002年)で、アメリカでは2番目に温室効果ガスの排出量の多い州なのです 。さらに1990年の排出量と比較すると、排出量は11.5%増大しています。とはいえ、アメリカの他州と比較すると、加州の一人当たり排出量、州総生産あたりの排出量は、それぞれ46位、45位と非常に低いのです。
次に、加州の温室効果ガス排出量の特徴を見てみると、輸送部門のエネルギー消費が大きな排出原因となっていることが挙げられます。部門別排出量を見ると、運輸部門が全体の41.2%を占め、次に産業部門が22.8%、民生部門が19.6%を占めています。この運輸部門からの排出の大きさは、加州が車に依存した社会であることを示しているといってよいでしょう。

このアメリカでも有数の温室効果ガス排出州である加州が、明確に温暖化対策に取り組み始めたのは、ごく最近のことです 。とりわけ、温暖化対策が加州のエネルギー政策の主要課題の一つとなったのは、温室効果ガス排出削減目標を設定した2005年以降ともいってもよいかもしれません。
2005年6月にシュワルツェネッガー州知事が発表した州の温室効果ガス削減目標は、以下のようなものでした(図1参照)。

「カリフォルニア州は、州内で排出される温室効果ガス排出量を
・2010年までに、2000年レベルに削減、
・2020年までに、1990年レベルに削減、
・2050年までに、1990年比から80%削減する。」

この目標値を見ると、2020年までの目標値は現実の排出動向を踏まえたものであり、実現可能性を重視したもののようです。一方、2050年の目標値は、脱炭素社会を展望したあるべき姿を描いているようです。
加州は、この目標値を達成するために、主に3つの政策領域に焦点を充てています。その政策領域とは1)運輸部門の規制、2)エネルギー効率の向上、3)エネルギー供給部門の脱化石燃料化です。
次回では、それぞれの政策領域について深く見ていきましょう。

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(注1)日本では、自然エネルギーと一般に呼ばれている太陽光、風力、水力、バイオマスといったエネルギー資源のことを指します。
(注2)この制度は、Renewable Portfolio Standard (RPS)と呼ばれています。
(注3)この数字では、そんなに大きく感じないかもしれませんが、アメリカが50州あることを思い出してください。
Bemis, G. and J. Allen, (2005) Inventory of California Greenhouse Gas Emissions and Sinks: 1990 to 2002 Update, California Energy Commission.

2℃をこえると多くの生物が絶滅する

2006-05-27 12:01:16 | 2℃

◆気温が上がると生物は移動が必要

 生物は植物でも動物でもまわりの温度に非常に敏感です。それぞれがみな自身にちょうど適した気温や水温のところで生活しており、それらの温度がすこしでも変化すると、もうそこでは生きるのがむずかしくなります。そこで温暖化が進んで気温が上昇すると、生物は一般に気温がより低い高緯度地方または高所へ移動しなければなりません。具体的には、産業革命以前から2℃の上昇で高緯度地方へ 300 kmの移動が必要であり、山岳生物の場合には同じ条件で高所へ 300 m(高度)の移動が必要です。

◆すでにチョウや鳥類が移動を開始

 ドイツのハノーバー大学を中心とする国際的な研究チームの報告によれば、すでに北米とヨーロッパの 39種のチョウが最近 27年間に北方へ最高 200 km移動し、イギリスの 12種の鳥類も最近 20年間に北方へ平均 19 km移動したことが確かめられています(Nature 2002年3月28日号参照)。またWWF(世界自然保護基金)は、アルプスのある種の高山植物が最近 30年間に高所へ 100 m移動したことを指摘しています。
 わが国でも、国立環境研究所の最近の報告によれば、以前には九州や四国南部が限であったナガサキアゲハが 1980年代から和歌山県や兵庫県に出現し、2000年以降は関東地方でも生息が確認されたとのことです。

◆移動は現実にはむずかしいケースが多い

 しかし、このような生物の移動はかならずしもうまくいくとは限りません。動物は比較的動きやすいかもしれませんが、植物の場合には、すでに生えているものはただ枯れるのを待つのみであり、これとは別に他の土地で種子があらたに発芽し、成長することによってはじめて移動が可能になるわけです。とくに樹木の場合にはこの成長に長い年月を必要とします。ところが現実の温暖化の速度は、10年間に 0.3℃以上であり、この移動のテンポをはるかにこえているのが問題です。多くの樹木にとって移動が可能なテンポは、温暖化の速度とくらべて5分の1以下とみられています。
 また移動先の土地がやせていて移動する植物の生育に適さないケースも多いでしょう。そして植物の移動がうまくいかないと、それを食べ物とすることが多い動物も移動がむずかしくなります。こうして連鎖的に多くの生物が絶滅を強いられるケースが増えてきます。山岳生物の場合には、山の頂上へ向かうほど面積が減少することも移動による生息の維持を不利にします。

◆2050年までに生物種の 26~37%が絶滅

 最近イギリスのリーズ大学を中心とした国際的な研究チームがヨーロッパ、オーストラリア、メキシコ、南アフリカなどに分布する 1103種の陸上生物(ほ乳類、鳥類、こん虫類、植物など)について温暖化による生息環境の変化を見積もり、このままいけば 2050年までにそれらの 26~37%が絶滅すると予測しました(Nature 2004年1月8日号参照)。これは生息地の移動がむずかしいと想定した場合の予測ですが、前記のように、多くの生物についてそれが現実であると考えてもいいでしょう。なお、移動が可能であるとしても絶滅は 15~20%におよぶと予測されています。

 一方、国連環境計画(UNEP)も、このような絶滅を含めて 21世紀の半ばに生物分布が大きく変化する地域は世界の森林の 34%に達すると推測しています(このうち、北方林は25%が消失)。また3℃の気温上昇によってノルウェーの高山植物が4分の1に減少することも指摘されています。このように、気温上昇が2℃をこえると、地球の生態系に激変が生じ、多くの生物が絶滅せざるをえなくなります。そしてそれは私たちの生活にも多大の悪影響をおよぼすことになるでしょう。

このままいけば2℃をこえるのは2040年前後

2006-04-12 10:15:40 | 2℃

◆気温はすでに0.75℃上昇

 地球温暖化が進み、地表の平均気温はますます急ピッチで上昇しつつあります。2001年に公表されたIPCCの第三次報告では、産業革命以前から0.6℃上昇したことが確認されていますが、その後さらに温暖化が進んで、現在ではすでに0.75℃上昇したことがアメリカ航空宇宙局(NASA)のJ・ハンセン博士などによって指摘されています(たとえばScientific American 2004年3月号参照)。ハンセン博士はいうまでもなく地球温暖化研究の著名な先駆者です。

◆2℃の上昇は危険度が高い

 一方、この気温上昇が2℃をこえると、地表にはきわめて危険度の高い激変が生ずるので、最悪でもこれを2℃以下に抑制することを温暖化防止対策のぎりぎりの目標とすべきことが、多くの科学者、NGO団体、そしてヨーロッパなどの政府機関によって強調されています。2℃から上記の0.75℃を差し引けば、あと1.25℃しか余裕がないことになります。では現状のまま推移した場合に平均気温の上昇レベルが2℃をこえるのはいつごろのことでしょうか。

◆2℃をこえるのは2040年前後

 IPCCの第三次報告ではいくつかの温室効果ガス排出シナリオについて気温の上昇範囲が推算され、それらを全部まとめて2100年までに 1990年から1.4~5.8℃上昇すると予測されています。しかし、この場合に下限に近い値は、今後かなり二酸化炭素の排出抑制対策が進められたケースのものであり、対策が不十分な現在の状況が続く場合には、図に示すように3.2~5.8℃の上限側の上昇予測がほぼあてはまるとみられます。この値は、産業革命以前から3.7~6.3℃上昇することを意味します(90年までに0.5℃上昇している分を加算)。したがって2℃をこえるのは、この図から2040年前後(すこしおくれても2050年)と推測されます。

◆2025年頃には1.4℃上昇

 この第三次報告以後にも、イギリスの有名な気象研究機関のハドリーセンターが、比較的短期の変化を予測する新しいシミュレーション実験にもとづいて、地表の平均気温が2020~30年に1990年代とくらべて0.3~1.3℃上昇すると報告しています。またスイスのベルン大学の研究者も同じ期間に0.5~1.1℃の上昇を予測しています(Nature 2002年4月18日号参照)。これらの上昇温度範囲の中央値は共に0.8℃ですが、これに産業革命以前から90年代までの上昇分(およそ0.6℃)を加算するとおよそ1.4℃になります。そしてこれが2025年頃に予測される気温上昇レベルです。この上昇ペースは2040年前後に2℃をこえるという前記の推測とほぼ一致するといえるでしょう。

◆温暖化防止は今世紀前半が正念場

 以上のように、地球温暖化の悪影響に関して私たちがまず問題にしなければならないのは、2100年のことではなく、それよりはるかに近い2040~50年のことです。そしてその時点における2℃の上昇をくい止めるには、2020年頃までの温暖化防止対策が決定的に重要であることを忘れてはなりません。

パソコンの埃飛ばしスプレーから、強力な温室効果ガスが・・

2006-03-01 16:36:47 | 温室効果ガス
 みなさんは「代替フロン」が非常に強力な温室効果ガスであることをご存知でしょうか? そして私たち自身、知らないうちにそれを使っていることを・・・。

例えばパソコンの埃を飛ばすためのスプレーを使ったことはありませんか? もしその缶に「HFC134a」という表示があったとしたら、それは「代替フロン」の一つで、二酸化炭素(CO2)に比べ1300倍もの温室効果を持っているガスを意味します※。そこでもしその500g缶を1本使いきったとした場合、CO2に換算するとなんと650kg(CO2換算)もの排出をしたことになります。この650kgというのは具体的には1世帯の2ヶ月分の排出量、あるいは冷蔵庫11年分、21型テレビだと22年分の排出量に相当します。さらに温暖化による海面上昇で、国が水没の危機にあるキリバスのひとりあたり排出量と比べると、この1缶でなんと2年分のCO2排出量になります。もしキリバスの人たちがこの事実を知ったとしたら・・・そう考えると、これは知らなかったでは済まされない問題ではないでしょうか。

 フロンは無色で人体への害が少なく、冷媒や断熱材などに適した便利で安価な人工化学物質です。しかし1980年代に入りその一部がオゾン層を破壊することがわかり、先進国では生産禁止、あるいはその多くが今後生産規制の対象となっています。そこでオゾン層を破壊しないということで登場したのが代替フロン類です。しかしフロンも含め、この代替フロン類は、上述のように非常に強力な温室効果ガスであることがわかってきました。例えば代替フロン類の中でも「HFC23」はCO2の1万倍以上もの温室効果を持っています。しかも日本の温室効果ガス排出量の約2%は代替フロン類です。

 代替フロン類は主に半導体などの製造や工業製品の洗浄などに使われているほか、私たちの身の回りではエアコンや冷蔵庫などの「冷媒」や建物の「断熱材」として使われています。そしてこれらはいずれも製造後、長い年月を経て徐々に排出されます。日本では現在、冷媒フロンは廃棄の際に回収が義務付けられていますが、完全回収は技術的にも不可能であり、やはり今後は代替フロンからの完全脱却を考えた脱フロン化に向けての取組みが必要であると考えられます。

 私たちも知らないうちに代替フロンを使った断熱材の家に住み、機器を使っていることに気付くだけでなく、スプレーはもちろん、冷蔵庫、断熱材などについてノンフロン製品があればそれらを確実に選び、またもっと政府の対策や業界の削減目標に目を向けて、声を上げていかなければならないのではないでしょうか。


※最近CO2の140倍の温室効果をもつHFC152aというガスを使ったスプレーが売られ、なぜか「グリーン購入」指定になっています。HFC134aを使う製品よりはましですが、それでも1缶使えばそれだけで冷蔵庫なら1年、テレビなら2年分の消費電力を発電するのに相当する排出量になります。

今地球の海で ー深層海流と塩分濃度の減少ー

2006-02-17 13:40:40 | 影響
 深層海流は世界各地の気候を決定する大きな要因になっています。そして今温暖化がこの深層海流に深刻な影響を及ぼし始めているのではないかといわれています。そこでまずこの深層海流とはどういうものかについて簡単に説明しましょう。

 海洋には暖かい表層水の循環と深さ数千メートルの深海を循環する深層水の2つの大きな流れがあります。一般にメキシコ湾付近の赤道域の暖かい海流は、北上するにつれて熱を放出し、冷えていきます。また海水の氷結時に排除される塩分によって、海水の塩分濃度が増加し、海水は重くなっていきます。この冷たく重くなった海水はグリーンランド周辺で、海底へ深く沈み込み、図にあるように大西洋の深さ3000m~4000mを南へ移動する深層海流となります。これはやがてインド洋と南太平洋に別れて北上します。このときにしだいに暖められて浮上し、インド洋北部と北太平洋で表層水になります。そして向きを変えて南下し、アフリカ大陸の南端を回って再び大西洋に戻ってきます。

 この深層水の動きは非常にゆっくりとしたもので、1時間にやっと1~2メートル程度です。大西洋を北から南まで縦断するだけでも100年程度かかるといわれています。しかし、この循環(熱塩循環*)のおかげで、ヨーロッパ北西部は比較的高緯度にもかかわらず気温がかなり高くなっています。大西洋を北上する表層水がグリーンランド沖で熱を放出して大気を暖めるからです。

 ところが2005年に米ウッズホール海洋学研究所は、1960年代以降、北大西洋の広い範囲に大量の真水が流れ込み、海水の塩分濃度が低下しつづけていると発表しました。この真水の流れ込みはグリーンランドの氷河の融解とその周辺海域の雨量の増加のためであり、これらはいずれも温暖化の進行に由来すると指摘されています。このように表層水の塩分濃度が低下して軽くなると、深層に沈み込むのがむずかしくなり、極端な場合には熱塩循環が停止してヨーロッパが寒冷化するおそれがあります。とくに1万年以上前の氷河期から間氷期に移行する時期にそのようなことが起こり、ヨーロッパ全体が凍りつく期間が千年近くも続いた事例があったと推測されています。

 一方、IPCCの第三次報告によれば、今世紀中に熱塩循環が完全に停止する可能性は低いようです。また循環が多少弱まっても、それに由来する寒冷化よりも温室効果ガスの増加による温暖化の方が上まわり、ヨーロッパの気温は依然として上昇すると指摘されています。しかし、グリーンランドの氷床の融解が最近速度を増しつつあることや、このような循環の停滞が地域レベルの海流にも大きな影響をおよぼすかもしれないことを考えると、今後の推移を厳しく注視する必要があるでしょう。

 *深層海流は熱循環と塩分濃度によって支配されているので、ふつう熱塩循環とよばれています。

地球温暖化と異常気象増加のメカニズム(3/3)

2006-02-11 14:50:10 | 影響
「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」第3回
元気象研究所研究室長 増田善信


◆地球温暖化とブロッキング

さて、温暖化が起こると、北極や南極など極地方は、赤道付近に比べてより急速に温暖化します。それは太陽の光を反射していた極地方の雪が、温暖化の影響で融け、太陽の光をより多く吸収するようになるからです。図は、1976年から2000年までの25年間の年平均気温のトレンド(変化傾向)を示したものです。北極および南極に近い地方ほど、気温上昇のトレンド、すなわち温暖化のトレンドが大きく、10年間で1℃の割合で上昇しています。しかし、赤道付近は僅かに上昇しているだけです。

極地方の温度が高くなると、極地方と赤道地方の間の温度差が小さくなります。すると上に述べたメカニズムでブロッキングが起こりやすくなると考えられます。東京大学気候システム研究センターの荒井美紀研究員は、4月のシベリアの気温が高い年は、その年の4月以降のブロッキングの出現頻度が平均より最大1.4倍まで増えることを明らかにして、「地球温暖化により、シベリアの雪解けが早まるため」と推定しています(2003年11月4日付「毎日」夕刊)。

しかし、まだ全球的に、地球温暖化による赤道地方と極地方の温度差の減少とブロッキングの発現頻度の増加の関係を明らかにした研究はありません。従って、まだ、「地球温暖化によってブロッキングが増加する」と確定的にいうことは出来ませんが、もし、このことが事実ならば、温暖化によって、ブロッキングが起こりやすくなり、同じような気圧配置の状態が持続する可能性があります。その結果、晴天の所は何時までも晴天が続き、酷暑とカラカラ天気の気候になり、雨の所は何時までも雨が降り、冷夏と多雨の異常気象が生まれるのではないかと考えられます。

現在、私は元の同僚と共同で、毎日の500hPaの天気図を用い、ブロッキング・インデックスを指標に、ブロッキングの発現頻度の統計をとっています。この研究が終われば、私の推論が正しいかどうかが確かめられると思っています。

※増田さんには、今月18日に開催される報告会「加速する地球温暖化と歩み始めた京都議定書」でご講演いただきます。
直にお話の聞けるこの機会をぜひお見逃しなく!
(詳しくは、下記をご覧ください。)

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 【 COP11、COP/MOP1参加報告会 】
 
  加速する地球温暖化と歩み始めた京都議定書
    
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 京都議定書が発効してから初めての国際交渉会議(COP11、COP/MOP1)が、2005年11月28日~12月10日の日程で、カナダのモントリオールで開催されました。

 世界から1万人以上が参加した今回の会議では、京都議定書の運用ルールをすべて採択し、2013年以降の議論についての道筋に合意するという大きな成果をあげました。

 一方で、地球温暖化は急速に進行しています。

 報告会では、モントリオール会議の参加報告に加え、近年の異常気象と地球温暖化との関連、また、地球の平均気温が2℃上昇することの意味について報告を行います。ぜひ、ご参加ください。

■日  時:2006年2月18日(土)午後1時 ~4時 
■内  容:
<地球温暖化の影響>
 報告1 「地球温暖化と異常気象」
     増田善信氏(元気象研究所室長、CASA会員)
 報告2 「危険な上昇レベルは2℃?」
     泉邦彦(CASA代表理事)
<国際交渉>
 報告3 「COP/MOP1の成果と今後の課題」
     早川光俊(CASA専務理事)
 
質疑・意見交換

■場  所:全国地球温暖化防止活動推進センター
     (東京都港区麻布台1-11-9プライム神谷町ビル
     (財)日本環境協会内)
http://www.jccca.org/about/zenkoku/jyusyo.html(地図)
■アクセス:東京メトロ日比谷線 神谷町(1番出口)徒歩3分
■参加費:一般800円 会員500円

※報告会後、懇親会を開催する予定です。
 ご希望の方はご連絡ください。

■主  催:
NPO法人 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA) 
     大阪市中央区内本町2-1-19-470
     電話:06-6910-6301  FAX:06-6910-6302
     E-mail:office@casa.bnet.jp

地球温暖化と異常気象増加のメカニズム(2/3)

2006-02-06 17:50:41 | 影響
「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」第2回
元気象研究所研究室長 増田善信


◆ブロッキングとは

ブロッキングというのは、図でモデル的に示したように、順調に西から東に移動していた偏西風の波動が、大きく蛇行して二つに枝分かれし、長時間にわたって停滞した状態になることです。丁度上層の西風ジェットの流れが妨げられるので、ブロッキングという名前が付けられました。ブロッキングが起こると、今まで周期的に変わっていた天気が周期的でなくなります。

北半球では、枝分かれした南側のジェットの北に切離低気圧が、北側のジェットの南には切離高気圧が出来ることが多い。切離低気圧の下の地上では、低気圧や前線が停滞し、悪天や集中豪雨が続き、切離高気圧の下では高気圧が出来、カラカラ晴天が長時間続きます。

ブロッキングはヒマラヤやロッキーなどの大規模な山岳や、海洋の影響も受けるので、北半球ではユーラシア大陸の東から北太平洋にかけて、ヨーロッパからロシア西部、アメリカ大陸東部からクリーンランドにかけてなど、特定の地域で多く発生する傾向があります。


◆西風ジェットとブロッキング

温暖化とブロッキングの関係を説明する前に、西風ジェットがなぜ起こるかを説明しておく必要があります。地球は太陽光によって、赤道付近が最も強く暖められ、北極や南極などの極地方はそんなに暖められませんので、赤道付近と極地方との間に大きな温度差が生まれます。この温度差を解消するために、太陽光で暖められた赤道付近のあったかい空気は上昇し、極地方に流れてゆきます。この極地方に流れてゆく風は、コリオリーの力で曲げられ西風になります。これが西風ジェットです。

西風ジェットの下の地上付近には高気圧、低気圧があります。この低気圧の前面の風(北半球では南風、南半球では北風)によって、暖かい空気が極の方へ運ばれ、高気圧の前面の風(北半球では北風、南半球では南風)によって、冷たい空気が赤道地方に運ばれ、最終的に赤道地方と極地方の温度差を解消します。

従って、赤道地方と極地方の温度差が大きければ大きいほど、大量の熱を極地方に運ばなければなりませんから、西風ジェットが強くなり、高、低気圧が発達します。反対に、赤道地方と極地方の温度差が小さければ、西風ジェットは弱くなり、ブロッキングが起きやすくなるのではないかと考えられます。


<次回「地球温暖化とブロッキング」に続きます>

地球温暖化と異常気象増加のメカニズム(1/3)

2006-02-02 23:45:41 | 影響
※元気象研究所研究室長の増田善信さんにご寄稿いただいた「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」についての解説を、3回に分けて連載します。


「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」第1回
元気象研究所研究室長 増田善信

◆大気が不安定になり集中豪雨や発達した低気圧、台風が増加

温室効果ガスが増えると、赤外放射の吸収が多くなり、地面付近の気温は上がります。その反面、成層圏では、その分だけ赤外放射が減るので、逆に寒冷化します。そのほか、フロンガスによるオゾン層の破壊で、紫外線の吸収も少なくなるので、一層成層圏の温度が下がります。上層が冷たくなり、下層が暖かくなって、上下の温度差が大きくなることを「大気が不安定になる」といいます。

図は1957年以後の対流圏と成層圏の気温変化を示したものです。地上気温は1965年頃から年々上昇しはじめ、この35年で約0.6℃上昇しました。地球温暖化の影響だと考えられています。

一方、成層圏では、エルチチョンやピナツボなど大きな火山が噴火したときは、成層圏の気温が一時的に上昇していますが、全体として年々気温が下がり、この35年間で約3℃も低下しています。

その結果、年々上下の温度差が大きくなって、大気が不安定になっています。大気が不安定になればなるほど、強い上昇気流が起こり、集中豪雨など、豪雨が頻発し、台風や低気圧も発達し易くなります。最近の異常気象の激増は、地球温暖化によって大気が年々不安定になってきたためだと考えられます。


◆異常気象とブロッキング

しかし、大気の不安定化だけでは異常気象は説明できません。異常な状態が何日も続いたときに異常気象が起こるのです。例えば、地球全体は温暖化しているといわれているのに、昨年(2005年)12月には日本は記録的な低温と大雪に見舞われました。また2003年は、日本付近は極端な冷夏でした。一方、フランスなどヨーロッパは、熱中症で死亡する人が続発したように、酷暑でした。ところが2004年は、逆に日本の7月は酷暑で、ヨーロッパはそんなに暑い夏ではありませんでした。このような異常気象は大気が年々不安定化しているということだけでは説明できません。

1日や2日暑くても、翌日は寒くなるように、天気が周期的に変われば、酷暑や冷夏は起こりません。問題は同じような天気が何日も続くことです。昨年の台風がほとんど同じようなコースを通って日本に襲来したのも、同じような気圧配置が続いていたからです。このような同じような気圧配置が続くことをブロッキングといいます。温暖化が起こると、ブロッキングが起こりやすくなるのではないかと考えられています。

<次回「ブロッキングとは」に続きます>

今地球の海で ―上がる海水温度―

2006-01-20 22:24:29 | 影響

 米ワシントン大学の研究グループは昨年9月に、世界の海面温度は1950年からの約50年間で約0.5℃上昇していると発表しました。また米海洋大気局(NOAA)は、この温度上昇をすべての海水温度に平均すると、約0.037℃の上昇になると計算しています。

みなさんはこの温度上昇の幅を小さな数字だと思われますか?一般に海水は空気に比べて約1000倍もの熱を蓄えることができると言われています。そこでこの海水温の上昇分を大気に戻した場合、 なんと大気中では約40℃もの温度上昇をもたらすことになります。すなわちこのわずかだと思われる0.037℃という温度上昇は、じつは膨大なエネルギーの吸収を意味しているのです。そしてこのエネルギーの一部が強い台風やハリケーンを多発させると考えられています。

 ところで国立環境研究所などの報告を見ると、日本でもこのまま温暖化が進めば2100年には日本海沿岸の海面水温が約3℃上昇すると予測されています。これによって自然災害の激発と共に生態系への影響が危惧されます。たとえば昨年10月、北海道大学大学院の山中康裕助教授は温暖化の影響で植物、動物プランクトンの減少により、今世紀末にはサンマが10センチくらいの大きさになってしまい、漁場も遠ざかるのではないかという研究結果を発表しました。

 しかし生態系への影響はかならずしも遠い将来のことではなく、2004年末に熱帯に生息するオニヒトデが紀伊半島南端で大発生して、テーブルサンゴなどへの食害が深刻化したこと、あるいは海水温上昇により沖縄のサンゴの白化が進んでいることなどをニュースなどで耳にしている方も多いのではないでしょうか。一方、昨年11月にはWWFが、このまま海水温度の上昇が続くと、米国やカナダの周辺海域では、比較的低温を好むタラやカレイ、スズキなどの魚の資源量が大幅に減少し、その分布も大きく変化するという報告書を出しています。このように私たちに身近な魚についても温暖化によると考えられる悪影響が憂慮されます。