Mi Aire

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プロローグ~「誘惑の国スペイン」

2007-02-01 23:56:46 | 誘惑のスペイン(EMPRE掲載分)
「誘惑の国・スペイン」

「魅惑の国スペイン」と書こうとしたけれど、うっかり「誘惑の国」と書いてしまった。
そう、魅惑の国スペインは訪れた人を誘惑する。ひとたびあの大地を踏んだりしたら、理性を失くしてカルメンの虜になってしまった青年ドン・ホセのように、私達はスペインという国に誘惑され、気付かないうちにその虜になってしまう。
スペインにはたくさんの危険な(?)魅力が隠されていて、かくいう私もその魅力に
とりつかれてしまったひとりなのだ。

スペインといわれて我々日本人が思い浮かべるイメージは、闘牛とフラメンコが一番かもしれない。「光と影の国」とか「情熱の国」などと呼ばれることも多い。もちろんそれらもスペインを代表するイメージの幾つかではあるけれど、この国は「多彩な国スペイン」と呼びたいくらい、変化に富んだたくさんのエレメントに彩られている国なのだ。
言葉ひとつとっても、単純に方言とはよべない異なった言語が共存している。バルセロナの辺りを旅する人は、そこがカタルーニャという独自の文化を持つ自治県で、カタラン語という言葉が話されているということを知るだろう。
同じように北に広がるバスク地方では、バスク語といういずれの言語にも似ていない、謎めいた(?)言葉が話され、ポルトガルに近い北のガリシア地方では、ポルトガル語に近いガジェゴという言葉が話され、南のアンダルシアではアンダルースという方言が話されている。フラメンコの歌・カンテはアンダルースで歌われているのだ。
当然のことながらこの言語と同じように人々の気質も、文化や芸術も、気候風土も、料理も、踊りもすべてその地方の伝統や特色があり、多彩な魅力を放っている。
フラメンコだけがスペインを代表する舞踊ではないこと、闘牛が嫌いなスペイン人も多いこと、スペインは全土が暑くて、すべての地方の家々の壁が白く塗られているわけではないことなど、実際に行ってみれば日本人のもつスペインのイメージはその一端でしかないことが、一目瞭然なのだ。



強烈なまぶしい光と、その光がつくりだす濃い影。日本の景色にも似た潤いのある北スペインの景色や、荒涼としてくっきりとコントラストをなす南スペインの景色。
四季のはっきりしたおだやかな日本と異なり、スペインの気候風土は鮮烈だ。
そのせいか人々の生活習慣や雰囲気も日本とはまったくちがうように思う。
日没の時間がおそいのも、生活習慣や時間帯が日本と異なる理由のひとつだろう。
シエスタをはさんで1日を2度生きる。1時間のお昼休みにあわただしく昼食をとって仕事に戻っていく日本人と違い、彼らは午後2時頃から大半の人は家に帰って家族とゆっくり時間をかけて昼食をとり(彼らの昼食は1日で最も重要な食事なのだ)ゆっくり休んで再び仕事に戻り、また8時くらいまで仕事をする。仕事が終わっても夏だとまだまだ外は明るいから家路につくまでにバルで軽く1杯やったり、家族と一緒に散歩にでたりできるのだ。時間の流れ方がちがうなぁとひしひしと感じる。
東京で暮らしていると、いつも何かにせき立てられるように時間に追われている。一日に何度時計をみることだろう。でも、スペインに行くとゆったりと流れる時間に身をまかせ(もちろん旅行者ということもあるけれど)彼ら流の生き方を垣間見て、本当に大切なことは何なのか考える時間が生まれるのだ。

「誘惑の国スペイン」にとって、そんな理屈はどうでもいいことなのかもしれない。
スペインは誘惑した相手を決して飽きさせたり失望したりさせない魅力あふれる国。
だから「ホセ」は「カルメン」に逢いたくて、またスペインに行きたい!と心から願うのである。


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