Mi Aire

創作・詩・旅行記・エッセイの書棚

「飛行機の窓から」

2007-09-09 23:31:14 | エッセイ(EMPRE掲載分)
(これは2006年にEMPREに掲載された記事です。)


飛行機に乗り、窓際の席に座る。国際線などでは高く飛ぶので飛び上がってしまったら、あまり下の景色は見えないけれど、国内線なら普段見ることのない景色を楽しむことができる。飛行機は離陸するとあっという間に高く舞い上がり、地上をみるみる離れていく。空港の建物のまわりに停まっている他の飛行機や車はたちまちオモチャのように小さくなり、道路が光り輝くリボンのように見えてくる。家々の屋根、深い緑の森、山や海、湖や川など、様々な風景が音もなく静かに広がっている。この高さになると、もう人間ひとりの姿は見えない。リボンの上をきらりと光る車が見えるだけだ。列車の車窓とちがった目線からの景色は変化に富み、飽きることはない。もっとも時々雲があらわれては、見えなくなってしまうこともあるけれど。



スペインを旅する時、多くの場合、オリーブの森の景色などが延々と広がる。日本のように高い山があまりないので、どこまでも続く平野に規則正しく植えられたオリーブの木々が模様のように連続し、そのところどころに、光る湖や池や白い集落などが点在して、いかにもスペインだなぁと思わせてくれる。
日本からスペインに到着するのはたいてい夜なので、マドリードの夜景もきれいだ。たくさんの街の灯が、闇の中に浮かび、人々のぬくもりを感じさせてくれる。スペインのお隣・リスボンの街の茶色い屋根の波も美しい。まるで絵本の挿絵のようだ。



日本の東北の方へ旅した時には、着陸間際、眼下一面に水田の景色が広がった。
天気が悪く、重い雨雲が空一面を覆っていたのだけれど、偶然に切れた雨雲の隙間から太陽の光が差し込み、まるで古い絵画の光景のように何本も差し込んだ光が水田を照らし、その水面は鏡のようにきらめいていた。見たこともない神秘的な世界に言葉もなくただ見入ってしまった。あの時の美しさは忘れない。
逆に南へ、沖縄へ旅した時には、明るい色の海に小さな島が浮かんでいた鮮やかな景色が印象に残っている。

こうして飛行機の窓から景色を眺めていると、普段いかに小さな世界に暮らしているのかを実感させられる。自分の行動している小さな世界の外側には、こんなにも大きな世界が広がっているのだ。小さな出来事や悩みやいろいろなことを疎かにするわけではないけれど、そんなことにこだわるよりも、もっと遠くを見通せるまなざしを持ちたい。些細なことなどどうでもよくなるほど、飛行機の窓からの眺めは魅力的だ。
小さな世界での悩みも、どんどん消えて大らかな気持ちになっていく。
世界は広いのだ。



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