Mi Aire

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「映画館へ行こう!」

2007-05-04 22:03:04 | エッセイ(EMPRE掲載分)
※このエッセイは「EMPRE 2003年 11月号」に掲載されたものです。

映画館。ブザーが鳴り、灯りが消えてスクリーンを覆っていた幕が静かに上がっていく。
再び灯りがつくまでのひとときを、そのとき一緒にすわっている人々とともに、日常とは別の時間が流れている映画の中に浸ってすごすのが私は好きだ。
最近は家庭のテレビも大きくなり、ビデオやDVDやパソコンやさまざまなメディアを通して映画を手軽に観ることができるようになったけれど、私はやっぱり映画は映画館で観たいのだ。音響の臨場感もスクリーンの大きさもさることながら、入り口の看板やポスター、ロビーのざわめき、予告編、そして始まる前の期待にみちた静寂など、あの独特の雰囲気。

今年(2003年)の夏、「Hable con ella」というアルモドバル監督のスペイン映画が上映されていた。(邦題は「トーク・トゥ・ハー」)
この映画の音楽には私の大好きなフラメンコ・ギタリスト、ビセンテ・アミーゴが参加しているということで、まずCDを買い、それを何回も聴いてから映画を観にいった。スペイン語がきけることや、スペインの景色がみられることも楽しみだったけれど、この映画は本当に音楽がよかった。
CDで聴くのももちろんよかったけれど、映画館で聴くとまたぜんぜんちがうのだ。

2時間あまりの間、嵐のようにスペイン語を聴き、オリーブ畑や闘牛場や空港や街中の風景を眺め、登場人物たちと一緒に濃厚なスペインの空気の中で呼吸した。
きっとこれは家のビデオなどでみていても感じることのできなかった濃さだと思う。
それが何度も味わいたくて、私はこの映画を何回も観にいってしまった。
ユーモラスな場面のときなど、他の人の反応というのも面白いものだ。

昔、テレビが個人の家になかった時代、映画館で人々は一緒にひとときの夢をみたのだろう。みんなで一緒に笑いあい、考え、涙する。そんな連帯感も映画館で映画をみる醍醐味だし、逆にひとりで暗闇でゆったりと物思いに耽るのもまた別の映画の醍醐味なのだ。

映画館へ行こう!日常生活からはなれてリフレッシュしたいとき。
そこは私たちに何か新鮮な贈り物をくれる豊かな空間なのだから。



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