チャンドリ・ブダ招聘公演実行委員会

バリ島の歌舞劇「アルジャ」役者の華ニョマン・チャンドリさんと、スカワティ村ガムランの我らがボス・ブダさん公演ご案内!

グンデルは両手で弾きましょう

2011年04月29日 | ガムラン・バテル



バテルの中核をなす楽器グンデル・ワヤンは鍵盤楽器。両手にもったばちで鍵盤を叩いて、音を出す。金属の鍵盤一枚ずつの下に竹筒がついていて、鍵盤の音はこの竹の中に共鳴して、響きがながく伸びるのだ。緩やかな弧を描きながら響きが遠くへ遠くへと消えていくのを見送るのは、なかなか気持ちの良いものだ。

しかしすべての音を野放図にのばしっぱなしにしていると、残響がまじりあって濁ってしまう。音の粒粒がつらなっているような旋律を演奏する時は、いらない音はさっさと消さないと。しかし両手はばちでふさがっており・・・というわけでグンデル演奏者は、メロディーを叩きながら、同時にバチを持った手の側面や下の方をつかっていらない残響をミュートしているのである。グンデル奏者の手は、たいへん忙しい。そんなわけで、グンデルはバリの楽器の中でもいちばん演奏が難しいと言われている。すごいのである。




(サンディア・ムルティ公演「夢一夜・五雲光芒」2010年、撮影:逸見幸生、一部を筆者が加工

でも、本当は「音を消す」だけなら練習すればある程度できるようになるんだよね~。両手がいっぺんに違う方向に動くことも、できるようになってみれば実感として見た目ほど難しいわけではない(そこまでいくのにどんだけ練習したかは別とする)。

本当に難しいのは、微妙な音の表情。そして自分だけでなく他の演奏者と文字通り一つになって音楽を共有できているかということ。影絵芝居では音楽は人形の動き、人形師の声にあわせて自在に変化する。全体がすんなり一つになるのに時間がかかる。

バリの演奏家はあんまりリハーサルをしない。しかしそのかわり、おなじメンバーで何度も何度も何年も演奏してきたバンドには、年月の積み重ねによってしか出せないようなグルーヴがある。そしてそんなグルーヴあってこそ、音楽が放っておいても、いきものみたいに動いていく。ガムランの本当のすごさはその辺にあるんじゃないかと思う。


練習の為の練習

2011年04月29日 | 練習日記など
kacu@名古屋です。

昨日名古屋組三人で5/1の為の練習しました!

寝ても覚めてもプンガクサマ&クレアシの日々。

クンダン(太鼓)は、
参考資料のビデオやCDを聞いて一緒に叩くことは出来ても、
一人になると出来ないってことがよくある。
それはまだうろ覚えであってちゃんと入っていないのだ。
どこがうろ覚えなのか、再確認が出来た。

プンガクサマの間の取り方、
グンデルと一緒に叩いて判明出来た(多分…)
やっといて良かった!

あと2日、どっぷり漬かってから東京さ行くだ

アルジャの役者はキャラクターの専門家

2011年04月25日 | アルジャ
前にも書いたけど、アルジャに出てくる登場人物はだいたい10-11人。名前や性格、衣装や話し方などが決まっていて、どんなお話でも同じキャラクターが出てくる。

アルジャの役者さんたちは、たいてい何年もの間一つのキャラクターを演じ続ける、そのキャラクターの専門家。アルジャのキャラクターは顔の形とか声質とか体型などもほぼ決まっているので、持って生まれた容貌や声が役柄を決めることになる。


写真は名・ガルー役者ジェロラトナとチョンドン役者チャンドリ、2005年

たとえば私がもしバリでアルジャ役者を目指すとしたら、十中八九、チョンドン(女官)役だと皆に言われる。顔の形や背格好がそうなのだ(私は踊りを勉強していないので、一生チョンドンになることはないんだけど)。私が仮に「王女がやりたいっ」と頑張っても、多分、よっぽどのことがないと、させてもらえない。

見た目から性格まで、お話が始まる前にすでにキャラクターが決まっているせいで、観客は役者をみてすぐにそれが誰で、どんな性格なのかわかってしまう。そして役者の方も、同じ役を何年もずっと演じ続けるうちに、何の苦もなくその役柄にすーっと入って、なりきってふるまうことができる。アルジャは「キャラ」の芸能なのである。


アルジャの歌はどんな歌(2)

2011年04月24日 | アルジャ

アルジャの中で一番たくさん歌われるのは、モチャパットという種類の声楽。これは詩の形式と基本になる旋律が決まっていて、そこにいろいろな内容のことばをのせていくもので、恋愛や教訓や宗教や哲学など色々な歌詞があり、アルジャの中では王子や王女が自分の台詞をモチャパットで歌う。

アルジャの中でもとくに、「きちがいの王子」であるマントリ・ブドゥと「きちがいの王女」であるリクー、それに男性の従者であるプナサルやウィジルは、モチャパット以外にもいろいろ楽しい歌を歌うことが多い。古典的なアルジャではパントゥン(インドネシア全域で歌われる古い詩の形をもつ民謡のような歌)とかグンディン・サンヒャン(サンヒャンという別の芸能で使う歌)と呼ばれる、ちょっとした小さな歌を劇中歌のようにして歌うことがある。最近はポップス等を歌うこともある。


歌に合わせて踊るキチガイ王女リクー(右)とキチガイ王子・マントリ・ブドゥ(中央左)、横目で見ている従者プナサル・ブドゥ(99年頃)

年配の男性の従者であるプナサルは、ちょっと知的な雰囲気があるためか、古ジャワ語で書かれた少々難解な古典詩・クカウィンをひとふし歌ったり、儀礼の場の雰囲気を演出するために、キドゥンと呼ばれる御詠歌のような歌をちょっとだけ歌うこともある。

今回の公演でもパントゥンとグンディン・サンヒャンをちょっとだけ使います。声を揺らして装飾的に歌うことが多いモチャパットとはひとあじ違った、軽妙な楽しい歌。






アルジャってなあに?

2011年04月22日 | アルジャ
来日するチャンドリさんは、バリの伝統芸能アルジャの第一人者。

アルジャは歌あり踊りありのお芝居。一応、ジャワやバリの古い物語をアウトラインにしているので、姫や王子やその従者たちが登場するんだけど、単に物語に沿って展開するというよりも、そこに世間話やら冗談やら、流行歌やらをつけたして出来上がった総合的な娯楽芸能。あれもこれもトッピングしてゴージャスになったパフェみたいな芸能なのだ。

アルジャに出てくる登場人物は、どんなお話をやる時もほぼ同じ。高貴で美しい王女と王子がいて、彼らに仕える忠実な女官と従者がいる。そして美しい王女や王子に横恋慕する、ちょっと傲慢な王女と王子がいて、こちらにも彼らに仕える礼儀を知らない女官と従者がいる。この設定で、あらゆるお話に対応してしまう。ちなみに現在、チャンドリさんはバリの子供アルジャ劇団のために「桃太郎」をアルジャにしようとしています・・・


(Arja Sampik ISI, 2006)

そしてそれぞれの登場人物には、それぞれ個性がある。年配者、若者、男、女、王子、平民、高貴な人、傲慢な人、おしゃべりな人、おバカな人・・・踊り方も歌い方も、台詞の内容も声の色も、一人ひとり違うのだ。

今回、東京公演では9月13日(火)杉並公会堂(荻窪駅徒歩5分)のレクデモで、チャンドリさんがアルジャに登場する約10の役柄をたった一人で演じ分ける一人アルジャ(arja tunggal)を披露予定!小さなチャンドリさんの体がいろんな風に動いて、いろんな声が出る。お見逃しなく。