820note

820製作所/波田野淳紘のノート。

革命は夢の終わり。

2010-09-24 | アナウンス。
今から四半世紀前、二十代半ばの青年が『新宿八犬伝』の第一巻を書いた。
エネルギッシュで猥雑な、沸騰する詩情。時代の騒乱と、街の喧騒にチューニングされた言葉たち。

上演された舞台が賑やかで力強いものであったことは容易に想像できるのだけど、この戯曲を読み返すたび僕は、どこか言いようのない寂しさを受け取る。

それは主人公のひとりが常に夢から醒めた意識を抱えて物語を生きているからなのかもしれないし、あるいはそこに登場する人間がことごとくまともでないからなのかもしれなくて、彼らの生は欠落を抱えるがゆえに「そうするより他ない」という切迫にいつも突き動かされる。陽のあたる大通りの安逸をあらかじめ奪われた人々。

最新巻であり最終巻である『犬街の夜』は、夢を見ることの難しい時代に、あらかじめ醒めていなければ生きられない街に、そうするより他なく夢見ることを選択した者たちの物語であり、夢見ることの格闘の記録であり、……って、よけいなことを言うと墓穴掘りますね、止めますね。ほんと最近そればっかりでね。

とにかく面白いんだ。
僕は深く勇気を得た。

『新宿八犬伝第五巻-犬街の夜-』が横浜・テアトルフォンテで幕をあけます。
波田野は横浜公演の演出助手として関わらせていただきました。いやはや得難い体験でした。

横浜、京都、松本、福岡をまわって、10月21日-28日に新宿で公演。
詳細はこちらから→T Factory ホームページ

横浜版では、東京のメンバーに加え、テアトルフォンテの付属劇団エルブの皆さんと、820製作所の印田彩希子がアンサンブルとして出演します。

◆T Factory/第三エロチカ 30th Anniversary
 『新宿八犬伝第五巻-犬街の夜-』
 川村毅作・演出
◆9月25日(土)16:00より開演。15:30開場。
テアトルフォンテ/045-805-4000
(相鉄いずみ野線「いずみ中央駅」徒歩1分。横浜駅から快速で24分)
◆チケット/3500円(高校生以下3000円)

近隣の皆さま、関東圏にお住まいの皆さま、どうか是非。

ほんと面白いですから。
かっこういいですから。

閉塞を破られます。

あわわ。

2010-09-20 | 生活の周辺。
はっちゃん、わりと大ピンチ!
どっしよかな。

うん、でも慌てない、腐らない、弱らない。
なんとかなる。起こったことはすべてが必然(by エリコ・ロウ)だ。

友にエールを。

今日は久しぶりにあっかさん、アモさん、みっくんに会った。
むくむくと力がわいた。みんな気持ちの良い風が吹いている。

とりあえず今秋から若返り大作戦を決行だな、俺は。
さわやかな演出家になってやるんだ。

くったくた。

2010-09-18 | 生活の周辺。
散文的な日々を過ごしてございます。ようやく夏は終わったのだろうか。

なんだかこの夏はおかしいほど疲れてしまった。
久しぶりにお会いした敬愛する先輩もずいぶんと疲れているようだった。駅前に群がる汗だくの若者たちを見て一言、「しかし大人の夏は氷点下だからね」と、瞳を宙にそらし青い煙を吐く。おおいに共感してしまった。

ものを生みだす姿勢がなかなかとれない。

まあ、じたばたするなってことだ。
いつも通りのことを、いつも通りにおこなうこと。崩れているときほど。

ことばのもんだい。

2010-09-17 | 生活の周辺。
となりんちのおっさんおばさんの胸を騒がす芝居を創るんだよと、その人は仰った。
僕の描いた絵空事は、こういうとき、どうにもただしい力を持つことがない。

世界はほんとうはとても弱いのだということ。
それでも世界は素晴らしいのだということ。

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(長い沈黙。ふいに、)

精液がゆっくりと股をしたたる。
ここは、ひどいにおいがする。
お父さんのことを考えてる。
勇敢だったお父さん。大好きだった。でも捕まってしまった。
手紙を送っても、送っても、返事が届かなかった。
だって本当は牢屋にすら入れてもらえなかったお父さん。
いまどこにいるのかな。
もし幽霊になってて、こんなところ見られていたら、どうしよう。
いやだな。すごくいやだ。
だめよ、落ち着いて、そんなことを考えてはいけない。
頭を空っぽにしなくちゃいけない。
できることをするだけ。クールにやり抜かなくちゃ。

そうして一夜が明けたわ。
あなたの死体はそのまま。

鳥たちは歌ってる、歌ってる、わたしあの歌声を聴くと、生きていかなくちゃって思うわ。
生きていかなくちゃ。生きていかなくちゃね。
あの男はどうしただろう。うまく逃げられたかしら。つかまっていなければいい。
いいえ大丈夫、わたしたちには神さまがついているんだもの。
すべてうまく運んでくれる。そのくらい信じてあげなけりゃかわいそうだわ、神さまが。

ねえ、
こうしてあなたに話しているうちに二日が過ぎた。
さっき小さな虫があなたのからだに入りこむのを見た。
しわよる皮膚のひきつれを見た。
空気が少しだけ濡れた。
そして鳥たちは歌った。
一週間が経った。
ふしぎね、わたしたちのこころのなかに湖がある。
こんなに渇いてしまっているのに、まだひたひたと胸を満たす。
魚たち。
けものたち。
小鳥たち。
聞こえる? 
もうずっと前からあなたがいるの。
ええ、そりゃたくさんのひどいことがあったわ、ひどいことが。
でも、この湖だけはだれにも奪えない。奪えなかった、けっして、だれにも。

いまだってほら、
すべての瓦礫を飲みこんで、
かなしみはこんなにもきれいで、
あなたにも聴こえるでしょう、
鳥たちがあんなにうれしそうに、
あんなに楽しそうに、
こんなに風が吹きわたって、
こんなにやわらかな光にあふれて、
わたしたちの眠りを守って、
わたしたちの頬をゆるめて、
目が覚めたらあたらしい世界が、
あたらしい街が、
いつだってそこに築かれるのだから。

ねえ。
死んでる場合じゃないわ。
いまこそわたしたちは生きなくては。
語るのよ、いとしいひと、それを、そのよろこびを。

起きなさい、
起きて、
ばかね、あなたが語らなければだれが語るの? 
起きて、あなたの務めを果たしなさい。
死んでる場合じゃない。
わたしたちは、ぜったいに、死んではいられない、死ねないのよ。
こうしているあいだにも、楽しいことは過ぎていく。
すべての美しいものがこぼれていく。
早く。
早く。
早く起きて、見て、こんなに美しいのよ、この世界は、
わたしたちの、この世界は! 
さあ、その目を開けて、瞳を閉じないで、
溺れるほどの美しさを、わたしたちに教えて。

まだここにいてもいいのだと、わたしたちに教えて。

(『青い鳥の群れ/靴』より)