文屋

文にまつわるお話。詩・小説・エッセイ・俳句・コピーライティングまで。そして音楽や映画のことも。京都から発信。

◆マイルスのこと、ふたたび

2012年05月01日 22時14分29秒 | 音楽
マイルス・デヴィスは、アルバム「ジャック・ジョンソン」で
スライ&ファミリーストーンの「シング・ア・シンプル・ソング」を引用挿入している。
具体的には、同アルバムの「ライト・オフ」の後半で、スライの曲中におけるギターとベースによるリフを、ジョン・マクラフリンに再現して繰り返すように指示したようだ。ただ、このアルバムは、何度かの“遊びのセッション”の模様をたっぷり収録しておいて、そのテープをプロデューサーのテオ・マセロがほとんどマイルスが関わることはなく、勝手に編集したようなも...の。
だから、ある意味で、テオの翻案であり、半創作物ともいえる。
ただ、この1970年頃のマイルスは、スライの音楽にかなり影響を受けていたと思われる。
それで、このアルバム「J.J」の挿入部分と、スライ&ファミリーストーンのオリジナル音が収録されている「スタンド」を聴き比べてみた。
じっくり聴いて、ひきこまれてしまったのは、久しぶりに聴いたスライ&ファミリーストーンの音楽だった。なんと、混沌として、濃厚な“ブラックネス”なんだとどっぷりはまりこんでしまった。CDよりもアナログLPで聴きたいとも思った。この液状であるのに“ザラザラした”触感は、どうだ。あきらかにマイルスよりも時代性に身投げして潔い。
マイルスにしてこの混沌ならば、「オン・ザ・コーナー」の横溢する破調とはくらべようもないほどに、「J.J」の密度は、すかすかしている。
「液状の」といって、そうだよなあマイルスにもたらりと垂れる液状の地平があったはずなんだけど、これは、スライの音楽にあふれていたんだ。
このアルバム「スタンド」の7曲目に収録された「セックスマシーン」のヴォイシングなど、マイルスは即座にいかれたのだろうな。
むだなく、清廉として邪悪な前衛が鳴っている。

       ●

相当以前に読んだのでうろ覚えなんだけど、マイルスは自伝で「ヴォイシング」ということを語っていて後年、ジミヘンが使っていた、「ワウ・ペダル」に強く興味をもち自分でも多用するようになる。それで、トランペットでギターのような人声のような、獣のような「音=ノイズ」を混在させる。その自伝で語っていたことで、とても
驚いたのは、ずっと昔のことだけど「フランク・シナトラのオール・ザ・シングス・ユー・アーの歌唱をヴォイシングした」という発言があった。
その音源は、はるか50年代なんだけど、7...0年代になって、もちろん推測だけど、
彼は、ジミ・ヘンのギターをトランペットで人声に似たものに翻案したのではないか。
そういうふうに「オール・ザ・シングス・ユー・アー」のフレージングと「間」を聴くと、確かにシナトラの歌声がかすかに聴こえる。思い過ごしか。ただ、この「似たもの」という発想がすごいと思う。
似たものを追求することで、つねに典型からはぐれ、破れていく。「なにやってんだ」と思われる。
確かに、70年代のマイルスは、リアルタイムに聴いていて、ジャズ喫茶でもどこでも
「なにやってんだ」と苦笑されていたなあ。でも、彼はそこに「想像できないもの」をどこかにとらえ一点突破しようともがいていたようにも思う。あの時代、ジャズの世界で一番「もがいていた」のはマイルスだった。コルトレーンがもちろん外に出ようとしていただろうが、圧倒的に「内面=スピリチュアル」に走っていたとき、
マイルスは、いつも外出だけを考えていたのだ。

       ●

あれは、高3の秋。文化祭で、「黒人差別とジャズ」というブースをつくって文化祭でがんばった。
受験間近で当初いっしょにやろうとしていた仲間は、みんな去ってしまって、一人でプロデュース
してなにもかもやった。黒人の人種差別の問題とジャズ音楽との関わりを考えるというテーマで
別にクラブ活動でもなく、楽しく作った。校長がやってきて、一応ぼくが説明すると「よく考えてるね」
と言った。「まあね」。受験なんてどうでもよかった。それで、隅っこにジャズ喫茶の空間をつくった。
香をたいてコーヒーを出した。さすがウィスキーは出さなかった。
ブレイヤーに当時のエレキギター用のアンプ+スピーカーをつないで
マイルスの「マイルス・イン・ザ・スカイ」を大音量でかけた。卒業した先輩は、大学で闘争にあけくれていて
、ぼくのマイルスを思い切りけなした。「コルトレーンかけろよ」と。
その当時、確かに「マイルス・イン・ザ・スカイ」がいいなんて、誰も評価していなかった。
文化祭のブースで、みんないなくなったとき、ぼくは、さらに大音響で、そのアルバムをかけた。
とてもいい気持ちだった。でもマイルスの音楽はそのとき、「本質的ではないな」と思った。
先輩たちは、しきりに「マイルスのジャズはノンラディカルだ」とかなんとか言っていた。
今となってはどうでもいいことだが。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿