『天女の涙』 ~倭国の命運や如何に~

今から1700年も昔の日本に栄えた古代都市、明日香京。謎に包まれた弥生時代をダイナミックに描く。

第 2 章 第 1 節

2016-04-23 14:38:29 | 長編小説
第 2 章 下界の卑弥呼

第 1 節 下僕

ここで話を卑弥呼に戻す。下界についてであるが毎年、天界から落ちる天人は、どうなったのであろうか。誰もが知りたい謎ではないだろうか。筆者も隠しておきたい訳ではない。少しばかり解釈を加えておく。

そもそも天人でしかない天の子は、いくら修養を講で積もうと登龍門に合格しなければ天女にはなれない。そして、銅講・銀講・金講をそれぞれ合格して天神となる。下界では、天人と人間では区別がつかない為、天界の掟により下僕として扱われるのである。

下僕は、天界で扱う修養を使えない。また、その能力がない。また、天の羽衣がないため寿命が尽きる。その一生を人間の家畜同然に扱われる運命にあった。下僕が、人間の役に立つか立たないかは、品格よりも体格にあると言って良かった。

然しながら、下僕も元はと言えば、天の子である。天寿を全うした下僕は、死後、天界に召されて天人と同列に祀られるのである。これは、天照大御神様の御配慮なのは言うまでもない。

ここで、卑弥呼が登龍門を合格して天女になったかどうかについて少しお話しする。どのような掟破りをして、下界へ降ったかは後で触れるとして、掻い摘んで説明する。

まず、卑弥呼は貧しい天男・天女の間に生まれた。幼い頃から、才気煥発な娘であった彼女は、何をさせてもそつがなかった。また、彼女はとても親孝行で、それを知らぬ者はないというぐらい有名な話であった。

そんな彼女も、他の天人と同じように登龍門に臨むことになるのである。そこで何と首席で卒業してしまうのである。更に、銅講・銀講も文句無しの首席で卒業して、金講5回生の秋、彼女に人生最大の転機が訪れるのである。

天界では、卑弥呼があと半年も経たずに卒業を迎え、晴れて天神となるはずであった。しかし、そのとき下界の倭国では、後継者争いから、乱れに乱れて醜い戦いが止むことがなかったのである。

繰り返し続く戦乱に、田は踏みにじられ家は焼かれる有様に、疫病が大流行し、人びとは生きる気力を失いかけた。誰もが、もうこの世の終わりをささやき始めた。そのとき!一人の天女が、立ち上がった‼︎

皆様、もうお解りでしょう。そう、天女・卑弥呼その御方であったのです。卑弥呼は、天神の位を得ずに下界の倭国王女として生きる道を選んだのでした。

倭国では、卑弥呼の超人的な働きにより争いはなくなります。民は熱心に稲作に従事して、秋には大豊作となりました。卑弥呼は、村ごとに用水路を整備して、衛生面を向上させます。また、薬草を栽培するのを奨励して、疫病を予防・治療するのに成功したのです。

他にも彼女の功績を挙げると、枚挙にいとまがありません。とにかく倭国の民は、歓喜して彼女を迎え入れ、王女として忠誠を誓うことを約束したのです。

ところで卑弥呼は、天神になれなかったことを、どのように思っていたのでしょうか?それは、貴方の想像力を膨らませて読み進めて頂ければ幸いです。そして貴方が、卑弥呼に成り切って感じて貰えれば、更に嬉しいです。



第 12 節 銅講

2016-04-23 10:23:56 | 長編小説
ここで後述となるが、由の命に別状はなかった。天女になれば、不老不死の天の羽衣を持っている。それは、天男も同じである。簡単に言うと登龍門を抜けて「 天の羽衣 」儀式を済ませていれば良いのである。

しかし、それでも由は、危うい所を助かったと言って良いだろう。由は、生まれつきの強運の持ち主であった。

それはともかく、由と京は、めでたく銅講へ入門することになった。これは、天の子と言えど狭き門である。由も京も胸を張って銅講の門を潜れる。銅講生と言えば、秀才の徒であった。

季節は、冬を越しようやく春を迎えようとしていた。天界にも下界と同じく生命の息吹が、あちこちに感じられて、自然と浮き立つ景色になりつつあった。

そして、春爛漫の桜が咲き乱れるなか、二人は、銅講へ入門した。それからも二人の友情は、変わらぬ清さがあった。加えて美貌も飛び抜けている。二人は、どこに行っても人気者であった。京は勿論のこと、由も天男の憧れの的であった。